ロイヤル・エレガンスの夕べ(8月9日)-3


 『ベアトリクス・ポター物語』~ピーター・ラビットと仲間たち~より「まちねずみジョニー」(振付:フレデリック・アシュトン、音楽編曲:ジョン・ランチベリー)

   五十嵐脩

  踊り手は子どもさんでしたが、開演前に場内アナウンスがあって、藤本琳さんに変更すると言ってた気がするんですが…記憶が確かじゃありません。間違ってたらごめんなさい。五十嵐さんはダンス・ツアーズ「未来の星」賞を受賞されたんだそうです。これはコンクールとかではなくて、講習会で教師のみなさんに高く評価された受講者さんだということです。

  あっという間に終わりましたが、とても上手でした。ステッキさばきもなかなかのものでした。


 「ディアナとアクティオン」よりパ・ド・ドゥ(振付:マリウス・プティパ、アグリッピーナ・ワガノワ、音楽:リッカルド・ドリゴ)

   佐久間奈緒、ツァオ・チー

  なんでこのお二人は、日本でのガラ公演では、『海賊』のパ・ド・ドゥと「ディアナとアクティオン」のどちらかしか踊らないんでしょう?レパートリーは他にもたくさんあるでしょうに。

  『海賊』のパ・ド・ドゥや「ディアナとアクティオン」みたいな作品を、日本にやって来て公演を行なうロシアや東欧のダンサーたちと同じか、もしくはそれ以上のレベルで踊れるのならともかく、毎度毎度、可もなく不可もないような程度の踊りしか見せられないのなら、あまり意味がないと思います。

  佐久間さんはヴァリエーションの後半をイタリアン・フェッテに変え、コーダで本来なら男性ダンサーが連続ピルエットをする部分で、チーは回転をせず、佐久間さんがグラン・フェッテを披露しました(確か)。頑張って観客を楽しませようとしていたのは分かるのですが、気持ちばかりが上滑りしちゃった感じです。

  佐久間さんとチーは、バーミンガム・ロイヤル・バレエのダンサーならではの作品で勝負したほうが、断然よいんじゃないでしょうか。権利や許可などの事情があるのかもしれませんが、次の機会には『海賊』のパ・ド・ドゥと「ディアナとアクティオン」以外の作品でお願いしたいです。


 「Rotaryrotatory(ぐるぐるまわる)」(振付:クリスティン・マクナリー、音楽:ビョーク)

   崔由姫、ダンス・ツアーズ「未来の星」受賞ダンサー4人

  「ぐるぐるまわる」って、本当にこう書いてあるんだもん。4人は全員女子です。崔さんはどういう衣装だっけ…。上がレース生地の、白い短いツーピースだったかな?忘れた。振付者のマクナリーは、『不思議の国のアリス』で料理女をやったダンサーです。

  この作品は、オルゴールに付いている、鳴らすと回り出す人形をイメージしたものだと思います。今回が世界初演で、つまりこの公演に合わせて作られた新作です。

  こういう機会を利用して、振付家としてのキャリアを積むのもけっこうですが、だったらある程度は質の良い作品を提供してほしいです。こんな習作ともいえないような、振付者の自己満臭がプンプンな、観客にとってはまったくもって意味不明な作品、端的に言いますと駄作を、わざわざ日本で最初に披露する必要はないと思います。

  ロンドンには、新進の振付家たちが自作を出品するための公演が多くあるのですから、そうした公演で一定の評価を得た作品を上演するとか、そういうふうにしてほしいです。


 「瀕死の白鳥」(振付:ミハイル・フォーキン、音楽:カミーユ・サン=サーンス)

   サラ・ラム

  プログラムの作品紹介の写真に載っているように、ラムは黒いチュチュで踊ればよかったのに!!!黒鳥の「瀕死」なんて、実に面白いじゃありませんか。強い衝撃を与えられたと思います。もったいない。

  ラムは白いチュチュで踊りました。マイヤ・プリセツカヤの「瀕死の白鳥」に雰囲気が似ていました。プリセツカヤのような枯淡という境地にはほど遠いですが、白鳥が迫りくる死と必死に戦い、抗っているという印象です。

  ラムの腕の動きと、爪先を小刻みに交差させながら細かく進む動きは粗かったです。この作品を踊るには、腕の動きがなめらかであること、パドブレが震えるように細緻であることが技術的な絶対条件で、それに加えて、ダンサー個人の解釈に基づく表現が必要になってきます。

  直近で観たのと比べると、ウリヤーナ・ロパートキナ(マリインスキー劇場バレエ)、ベアトリス・クノップ(ベルリン国立バレエ)、ヤーナ・サレンコ(同)に及ばないように感じました。


 「キサス」(振付:ウィル・タケット、音楽:映画『花様年華』サウンドトラックより)

   ラウラ・モレーラ、リカルド・セルヴェラ

  ラテン系の音楽に乗せた、振付もサンバみたいな動きがメインでした。モレーラは、スペインとか南米の女性が着ているような淡いピンクのワンピース姿、セルヴェラは…忘れました。たぶんTシャツにズボンとかでしょう。

  コミカルな雰囲気いっぱいで、恋人同士がいたずらっぽく戯れているような明るい作品です。モレーラもセルヴェラも楽しそうでした。セルヴェラのユーモア溢れる表情と仕草が笑えました。

  この記事は文句ばかりですが、これは偶然です。と前置きして書きますが、ちょっとダンサー個人の思い出を優先させすぎてはいませんか。プログラムによると、この作品は、ロイヤル・オペラ・ハウス内にあるクロエ・スタジオという小劇場で、数日間の「スペシャル・イベント」で「内輪だけに発表された」ものであり、今回は12年ぶりに「初再演」されたのだそうです。

  今回の公演は、前回に比べると、ダンサー個人の思い入れや事情を優先させた作品選択になってしまった感が強いです。残念ながら次もそう。


 「チャルダッシュ」(振付:スティーヴン・マックレー、音楽:ヴィットーリオ・モンティ)

   スティーヴン・マックレー

  タップ・ダンスです。振付はバレエの回転、フィギュア・スケートのスピン、タップの複合技でした。今回は少しやり過ぎです。マックレーがタップも上手なのはよーく分かりましたが、タップにはタップの世界的トップ・ダンサーたちがいるでしょう。たとえばセヴィアン・グローヴァーの前で、これを踊ってドヤ顔ができるでしょうか。しかも、今回は技を混ぜ過ぎて、タップが雑で粗いように感じました(床の材質や、会場の音響の問題もあったと思いますが)。

  観客は、バレエを観に来たのであって、タップ・ダンスを観に来たのではありません。部分的にタップを取り入れるのはかまいませんが、バレエがメインであってほしいです。また、自慢や自己顕示欲が先に立った踊りをすれば、観客は即座にそれを悟ります。マックレーは優れたダンサーですし、聡明でもあると思うので、こういう踊りをトリでやってしまう感覚が、私には理解できませんでした。

  総じて、今回は作品選択にダンサー個人の事情が反映され過ぎていた印象です。3回目もあるのなら、もうちょっと観客に歩み寄って、ダンサーが踊りたいものと、観客が見たいものとの中庸を得た作品を選んでほしいと思います。

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コメント
 
 
 
初めまして (Toshiaki)
2014-08-11 23:20:40
ロイヤルエレガンスの夕べのレビュー、1~3ほぼ全て同様の感想を抱いておりました。本公演のテーマや諸事情全てを無視すれば、楽しめた部分も少なくないので、勉強にはなりました。ただ、私の期待値が高過ぎたのか?正直なところ、少し残念な気持ちです。
 
 
 
ちょっとマニアックでしたね (チャウ)
2014-08-12 20:20:18
Toshiakiさま、こんにちは。こちらこそはじめまして。コメントをどうもありがとうございました。

今回の作品チョイスは、英国バレエの伝統と今とを伝える、という趣旨から外れて、ダンサーたち各々の個人的な事情や思い入れに偏ってしまったように私は思いました。

個人的には、デヴィッド・ビントリー、ピーター・ライト、クリストファー・ウィールドン、ウェイン・マクレガーなどの、評価の定着した作品をもっと上演してほしかったです。

ウィル・タケットの作品についても、何も「キサス」みたいなマニアック過ぎるものを選ばなくても…と感じました。

プティパの古典作品で、ダンサーたちが振付を派手派手しいものに変えて踊ったのにも、少し違和感を抱きました。イギリスのバレエの大きな長所の一つは、ソ連時代に失われてしまった古典作品の振付や雰囲気が残されていることだと思いますので…。
 
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