ボツメキの謎

(八塩山。山頂にはまだ雪が残っているのが見えた。)  

  ゴールデン・ウィークが終わりましたね。 みなさま、いかがお過ごしでしたか~?

  私の今年のゴールデン・ウィークはカレンダーどおりでした。で、土曜日から水曜日まで実家に帰省してました。

  連休期間中、東京は天気に恵まれなかったようですが、秋田は毎日暖かくて青空の広がる良いお天気でした。

  となると、ほぼ毎日どこかに出かけることになりました。この時期、ウチの母親は山菜採りに熱中します。ですから、出かけるのは例外なく山の中です。まあ、山の中は人がいないし(熊はときどきいる)、静かだし、良い空気で森林浴ができるし、私も文句はありません。

  山菜採りに慣れると、どこに山菜が生えていそうか分かるらしいのです。母親は「あっ、あそこに山菜がありそう」と言っては車を止め、鎌と籠(山菜採りセット。必ず車に配備)を持ってそこへ歩いていき、地面を見て回ります。

  私には雑草の生い茂った普通の草むらにしか見えません。ですが母親の目は鋭く山菜を見つけ(←これも慣れるとすぐに見分けられるんだそう)、鎌で刈り取っていきます。

  ちなみに採っているのは、ワラビ、ミズ、サシボ、フキ、タラの芽などです。ワラビとミズはおひたしにして、サシボはマヨネーズをかけて、フキはオリーブ油で炒めてお醤油とからめて、タラの芽は天ぷらにして食します。

  母親が山菜を採っている間、私はぼーっとして鳥の声に耳を傾け、東京にはない静寂に浸り、周りの風景を見ています。母親に協力すべきなのでしょうが、どれが山菜なのか識別できないので手伝いません(でも食べるけど~)。

  車で走っていると、道路沿いの草むらに母親の同志(ライバル)の姿が何人も何人も何人も見えます。みな一様に地面を見つめて歩き回っています。言うまでもなく、彼らが山菜を採っているのは他人の私有地か国有林です。でも山菜採りに関しては、そんな野暮は言わないのが暗黙の了解です。

  同じ草むらに数人が山菜を採っていることもあり、「あっ、それはオレが狙っていたタラの芽なのに」、「ふん、早い者勝ちだもんね~」と、焼肉店で時おり起こるトラブルのように、山菜をめぐってケンカになったりしないのかな、と思いました。が、母親によれば「そんなことあるわけねえべ」とのことです。でもいつかは、「山菜採り殺人事件」が起きるんではないか、と私はひそかに思いました。そのときはガチで全国ニュースになるでしょう。「秋田で山菜をめぐってトラブル、鎌で襲いかかる」とか。

  そういえば、夫婦で山菜を採っていて熊に遭遇し、奥さんのほうが熊に引っ掻かれた次の瞬間、旦那さんが熊の頭にケリを入れてヒット、熊が退散した、というニュースが『秋田魁新報』に載ってました。旦那さんはスパイク入りの長靴を穿いていたそうで、専門家(←何の?)の話では「熊は頭を蹴られてびっくりして逃げたのではないか」とのことです。てか、「熊はびっくりして逃げたのではないか」って、これが「専門家」のコメントかよ。

  さて、ある日も山の中へ入っていくと、母親が「この近くに『ボツメキの水』があるから、寄って水を汲んでいこう」と言いました。うねる山道をしばらく走ると、上の写真にある八塩山の麓に「ボツメキ涌水」と書かれた木の看板が立っていました。驚いたことに、途中で車一台にもすれ違わなかったのに、ボツメキの水には(田舎スタンダードで)多くの人が来ていました。

  直径1メートルほどの石組みの水槽には水が満々に溢れ、水面の真ん中から水が沸き起こっているのが見えます。その奥には岩が重なっていて、岩の間からも水が溢れ出ています。岩の下には湧き水でできた小さな小川が流れていました。岩の間には湧き水を導く竹製の筒が3本くらい差し込まれており、人々はその竹製の筒にボトルの口を添えて、水を汲んでいます。

  母親は3~4リットルは入るプラスチック製の大きなボトルを車の中から出しました(←これも車に常備しているらしい)。私はみなと同じように竹製の筒からほとばしる湧き水を汲みました。手で飲んでみると、ひんやりと冷たくて、クセがなく、かなり飲みやすい感じがしました。

  湧き水の傍にはボツメキ湧き水を説明する看板がありました。湧き水の上にある八塩山(やしおざん)に積もった雪が融けて、その雪どけ水が八塩山のブナ林でろ過され、更に地中深くに滲みこんで、再び地上に湧いて出てきているそうで、縄文時代から使われていたそうです。

  でも、私が気になったのは「ボツメキ」という名前です。漢字表記がなく、すべてカタカナで記されています。「ボツメキ」という語感はかなり異様な気がします。

  帰りに「道の駅」(国道版SAのようなもの)に寄ったら、ボツメキの湧き水で作った地ビール「ボツメキビール」を売っていました。喜んで購入しました。

  家に帰ってから、「ボツメキ」という語をググってみました。そしたら、私と同じように「ボツメキ」という語に興味を持った人は多いらしく、検索数が900件くらいありました。

  私は「ボツメキ」とはアイヌ語ではないか、と予想していました。北海道に限らず、東北地方にもアイヌ語の地名は多く残っています。「ヤチ(湿地)」、「アタゴ(小さな山)」などです。

  検索したところ、「ボツメキ」には古代日本語説とアイヌ語説の二つがあり、いまだ結論が出ていないそうです。アイヌ語説では、「ボツメキ」とは「泡が立つ」意だとのことです。泉が湧いている様を「泡が立つ(ボツメキ)」と表現したのではないか、ということですな。

  「ボツメキ」が古代日本語であれアイヌ語であれ、なんだか古代のロマンを感じるし、神秘的でよいなあ、と思いました。  
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