元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「月夜の願い」

2007-10-12 06:40:07 | 映画の感想(た行)
 (原題:新難兄難弟 He Ain’t Heavy,He’s My Father)93年香港作品。お人好しでホラ吹きの父(レオン・カーファイ)と現実主義者の息子(トニー・レオン)は何かとケンカしてばかり。ある日息子は、中秋の名月に木星が接近する晩にそこに入ると願いがかなうという穴に落ちて、40年前にタイムスリップしてしまう。彼を助けてくれたのは若き日の父。当時から筋金入りのお人好しだった彼は、人のために尽くして損ばかり。そのころ父はのちの母になる金持ちの娘(カリーナ・ラウ)と恋仲だったが、彼女の父親の妨害に遭っていた。息子は二人を助けようと、女友達のリン(アニタ・ユン)とともに東奔西走するのだが・・・・。

 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の二番煎じなのは一目瞭然。カーファイとカリーナ・ラウが踊る場面は「マスク」の盗用だ(製作年度は「マスク」より前なので、企画段階からパクったと思われる。香港映画では珍しくない手口)。SFXはチンケだし、カーファイの老けメイクは下手だし、いかにも低予算のプログラム・ピクチュアという感じは否めない。ああ、でもしかし、なんと娯楽映画のツボを見事に押さえた快作であることか。

 これはテーマ設定の的確さに尽きる。善良すぎる父とドライな息子がこの事件をきっかけに理解し合うという、使い古された主題でありながら作者はそれを信じて信じて信じまくり、斜に構えた皮肉な見方など跳ね返してしまう幸福な作品に結実させている。“一人は皆のため、皆は一人のため”。正論でありながら浮き世離れしたスローガンと思われていることを信条として頑なに生きる父親をこうも実在感たっぷりに描けるのは、作者は本気でこのメッセージを皆に伝えたいと思っているからである。こういうことを観客をキャッキャ言わせながら可能にするのは、世界ではもう香港映画以外ではできない。

 監督は「君さえいれば/金枝玉葉」のピーター・チャンとリー・チーガイ。スターをスターらしく撮り、見せ場もキッチリと、笑わせて泣かせてハラハラさせて(コメディ場面としみじみとした人情劇のコンビネーションも絶妙)、ラストのオチにも大爆笑だ。

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