元・副会長のCinema Days

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「梟 フクロウ」

2024-03-03 06:08:50 | 映画の感想(は行)
 (英題:THE NIGHT OWL )題名やダークなポスター類からはオカルトっぽい雰囲気の映画だという印象を受けるが、実際観てみるとそういうホラー風味は希薄だ。ならば期待外れなのかというと、それは違う。本国の韓国では2022年に興収の年間最長一位を記録したように、これは幅広い層にアピール出来るようなサスペンス仕立ての娯楽時代劇である。

 17世紀の朝鮮王朝時代に宮廷で働いていた盲目の天才鍼医ギョンスは、ある夜、彼は6代目の王である仁祖の息子の世子の死を“目撃”してしまう。世子は長らく中国に人質として身柄を預けられていたが、王朝が明から清に変わったこともあり、8年ぶりに帰国が許された。世子はこれからの朝鮮は清の文化や政治システムを参考にして改革路線に転じるべきだという考えを持っていたが、仁祖はこれを面白く思っていない。その矢先の事件である。王とその側近たちに追われる身となったギョンスは、何度かピンチに遭遇しつつも真相に迫ろうとする。



 当時の記録物“仁祖実録”に記された怪死事件を題材に、フィクションとして練り上げられたものだ。実はギョンスは完璧な盲目ではなく、真っ暗闇の中だと逆に朧気ながら周囲が見えるのである。これが題名の由来にもなっており、このことを秘密にしていたのは病気の弟のために治療費を稼がなくてはならず、何としても宮廷に雇われる必要があったからだ。無理筋のプロットと思われるかもしれないが、脚本はこれを活かした作りになっているので、特に批判するような余地はない。

 世子は毒殺されたということになっており、その毒物をめぐるやり取りはけっこうスリリングだ。また、仁祖を王位に就けたのは閣僚たちであり、皆が仁祖に忠誠を誓っているわけでもなく、宮廷の内外に国王派と不満分子が存在しているという設定は上手い。しかも、それぞれの構成員は日和見的にスタンスを変えてくるのだから、この筋書きは一筋縄ではいかない。脚本も担当したアン・テジンの演出はキレが良く、画面が暗いのは仕方がないもののドラマを弛緩させずに最後まで見せきっている。

 主演のリュ・ジュンヨルをはじめ、ユ・ヘジン、チェ・ムソン、チョ・ソンハ、パク・ミョンフンなど、キャストはいずれも好演だ。それにしても、李氏朝鮮時代の彼の国は中国との関係に大きく左右されていたことが、この作品の中からも伺えるのは興味深い。また、清王朝が倒れた後は日本が大きく関わってくるのも歴史上の事実。半島国家の地政学的な立ち位置は、悩ましいものがあるようだ。

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