元・副会長のCinema Days

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「デリカテッセン」

2006-09-06 07:15:30 | 映画の感想(た行)
 (原題:Delicatessen)91年製作のフランス映画で、「アメリ」「エイリアン4」などの監督ジャン・ピエール・ジュネがマルク・キャロと共に演出を手掛けている。

 核戦争後の荒野に建つアパルトマンの住人たちが唯一食料を買えるのが一階にあるデリカテッセンだった。ある日ふらりと元芸人の男が訪ねて来る。彼らの中にあって唯一マトモな肉屋の娘と愛し合うようになるのだが、変質者揃いの住人たちはそれを許さない。2人ははたして無事に脱出できるのだろうか・・・・。

 映像派の最右翼であるジュネ監督が、その素質を最も良く活かした映画がこのデビュー作だ。公開当時のキャッチコピーに“「未来世紀ブラジル」よりシュール、「ツインピークス」より奇怪”とあるが、この2人の作家にはテリー・ギリアムやデイヴィッド・リンチの持つ“毒”は感じられない。あるのは底抜けに明るい楽天性とポップ感覚だ。

 人肉食いというホラー度満点の題材を扱っているにもかかわらず、グロい場面は皆無。予告編に出てきた、最上階でのベッドのきしみ音に乗って、チェロの練習場面やメトロノームの音、主人公が天井にペンキを塗るリズム、オバサンがマットをパンパン叩く音、などが絡み合ってズンズン展開していく様子に代表されるように、音響処理のセンスが抜群だ。

 自殺志願の女(いつも未遂に終わる)や、カエルとカタツムリをいっぱい飼って食料にしている男や、“バカ発見機”などの役に立たない物を発明している男、そして人肉を処理する肉屋のオヤジなど、住人たちのユニークさに主人公も霞んでしまう。各部屋をつなぐパイプにより、会話は盗聴され、カメラはそのパイプを伝って部屋から部屋へ、そして“地底人”の住む地下へと動き回る。

 クライマックスは主人公と娘と住人たちと“地底人”と出入りの郵便配達人までも巻き込んでの追っかけだ。かなり登場人物が多いのにもかかわらず、ちゃんと手際よく描かれ、ラストの一件落着までうまくつなげているところは感心する。新人らしからぬ力量だ。

 あらゆる映像テクニックを満載した内容だが、観た後、まったくあと腐れのないスッキリ、サッパリした印象なのは、根アカな作りとセンスのよさ、そしてティム・バートンやサム・ライミみたいな“おたく”っぽさのない娯楽映画に対する前向きな姿勢のせいだろうか。誰にでも薦められる快作である。

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