元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「12か月の未来図」

2019-06-10 06:37:50 | 映画の感想(英数)

 (原題:LES GRANDS ESPRITS)「パリ20区、僕たちのクラス」(2008年)や「バベルの学校」(2013年)など、フランス映画は教育現場を舞台にしたメッセージ性の強いドラマを作るのが得意だが、本作も見応えがある。また提起される問題はヘヴィであるが、青筋立ててシュプレヒコールを叫ぶようなことは決してなく、ユーモアを交えてのスマートな語り口も魅力だ。

 パリの私立進学校で国語を教えるベテラン教師フランソワ・フーコーは、日頃より“地方の教育困難校にも経験豊富な教師を送り込み、改革に当たるべきだ”との持論を吹聴していた。その意見が偶然に政府高官の耳に入り、“素晴らしい主張だ。ならば本人から率先垂範してもらおう”とばかりにパリ郊外の中学校へ1年間限定で派遣されることになってしまう。

 気の進まないまま赴任してみると、治安の悪い土地柄を反映するかのように、フランソワの受け持つクラスも学級崩壊状態だ。挨拶がわりに実施した書き取りテストも、話にならないレベル。生徒の中でもセドゥは札付きの問題児で、教師の間では退学候補者としてリストアップされていた。成り行きとはいえ、現場改革の旗振り役を任じられたフランソワは、複雑な家庭環境によって難しい立場にいるセドゥを、何とかして退学処分から救おうと奔走する。

 通常、こういう“落ちこぼれ生徒と熱血教師”という図式は純然たるフィクションとしての訴求力はあるが、少しでもリアリズムに振った作劇を伴う映画においては、途端に嘘っぽくなるものだ。しかし本作は実録物のような雰囲気がありながら、絵に描いたようなフランソワの教師としての奮闘が強い説得力を持つに至っている。それはひとえに設定の巧みさだろう。

 藪蛇的に問題校に勤めるハメになったとはいえ、主人公は進学校では実績を積んでいた。しかも、成果を上げる必要はあるし、有名人の父親や妹に対する抵抗の意味合いもある。そして何より、フランソワが国語教師だということは大きい。文学の造詣が深い彼は「レ・ミゼラブル」の面白さを熱心に説き、少しずつ生徒の関心を集めていく。物語の力はどんな者でも振り向かせるという作者の信念(≒真実)が、映画に求心力を持たせている。

 しかも、このクラスは見事なほどの“他民族”の構成であり、それが(遅かれ早かれ)世界中の教育現場の実態になるという示唆は、大いに参考になる。オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダルの演出はソツが無く、自然体で主題を浮かび上がらせる。主役のドゥニ・ポダリデスも妙演だ。

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