元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ザ・シューター 極大射程」

2007-06-04 06:48:14 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Shooter )一見すれば脳天気なハリウッド製活劇編である。エチオピアでの軍事作戦中に幹部から最前線に置き去りにされ、戦友も失った元米海兵隊の凄腕スナイパーである主人公が、退役して隠遁生活を送っていたところ軍関係者からの“大統領狙撃計画が発覚したので、参考のためキミならどうするかシミュレーションしてほしい”という眉唾物の提案にホイホイと乗っかり、予想通りの裏切りにあって必死の反撃を開始する・・・・という設定自体が脱力だ。

 通常なら、そんな怪しいオファーなんか受けないか、たとえ受けざるを得ない状況であっても、途中から逃げ道ぐらい作っておくものだろう。それを“愛国心”なんぞを吹き込まれただけで危ない橋を渡ってしまうという筋書きは安易に過ぎる。よくそれで臨機応変ぶりが不可欠な狙撃手なんかやってられたものだ・・・・と思う間もなく、至近距離から2発の銃弾を食らっても走って脱出し、格闘シーンもこなし、果ては車を盗んで長距離ドライブと洒落込むに至っては、呆れて物も言えない。

 さらに彼に同行するFBIの新米捜査員も、最初は弱っちくて“真っ先に死んで当然のキャラ”のはずが、短期間の訓練で主人公と対等なパートナーシップを結ぶほど“成長”してしまう。活劇の段取りも不自然な点が多く、特に後半の雪山での立ち回りなど、主人公がいつああいう具合に待機できたのか、まるで不明。元戦友の妻に助けられるエピソードも御都合主義の極みだ。アントワーン・フークアの演出は「ティアーズ・オブ・ザ・サン」と同じく行き当たりばったりで、骨太なドラマツルギーとは無縁のようである。

 では観る価値はないかといえば、そうでもない。個々のアクション場面はすこぶる派手で少々のプロットの不手際を忘れさせてしまうし、何より事件の黒幕が単に軍上層部と政治家の結託だけではなく、国際社会の裏側に綿々と流れている“あるトレンド”であることを明確に指摘しているのは大きい。よく考えれば「ナイロビの蜂」や「ブラッド・ダイヤモンド」等と共通のヘヴィな題材を扱っているのだ。この(申し訳程度かもしれない)問題意識が、脳天気映画の“底辺”から、ほんの少しグレードを引き上げているとも言える。

 マーク・ウォルバーグは熱演だが、まあいつもの通り(笑)。それよりもパートナーに扮するマイケル・ペーニャ、悪役は珍しいダニー・グローバー、ヒロイン役のケイト・マーラなど、脇のキャストが印象的だった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「愛と精霊の家」 | トップ | 「スパイダー 少年は蜘蛛に... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(さ行)」カテゴリの最新記事