元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「天使の分け前」

2013-04-21 06:39:20 | 映画の感想(た行)

 (原題:THE ANGELS' SHARE )ケン・ローチ監督作としては「エリックを探して」に続く甘口のヒューマン・コメディだが、今回はいささか甘すぎた。こういう筋書きにしたいのならば、もっと主人公に同情を寄せられるようなシチュエーションをあらかじめ作っておくべきだ。

 スコットランドのグラスゴーに住む若者ロビーは育ちが悪く、今や暴力沙汰の常習犯だ。チンピラ共とのケンカ騒ぎで何度目かの留置場送りになった彼だが、恋人レオニーが出産間近ということで懲役刑を免れ、代わりに社会奉仕活動を命じられる。彼をはじめとする前科者の若者の面倒を見る社会指導員のハリーは無頼のウイスキー党で、ロビー達にもウイスキーの奥深さを教えるため、醸造所の見学コースなどをセッティングする。ところがロビーが思わぬテイスティングの才能を発揮。その道の世界的コレクターと知り合うまでになる。

 ある時、オークションに時価100万ポンドとも言われる樽詰めウイスキーが出品されることを知ったロビー達は、それを横取りすべく計画を練り始める。

 後半は若造どもの泥棒珍道中みたいな筋書きになり、タッチも明るくなってくるのだが、如何せんロビーにはそんな明朗ストーリーの主役になれるような“資格”がない。彼はこの若さ似合わぬ膨大な犯罪歴を持っているという設定で、相手に重大な後遺症を負わせた前科もある。ハッキリ言って、こういう奴は安易に“社会復帰”してもらいたくない。一生シャバの空気を吸わないで欲しいと、切に思う。

 それがまあ、恋人との間に子供が出来るというだけで塀の外での生活を享受できるなんてのは、何とも安直だ(もちろん、英国の法体系がそうなっているというのならば仕方が無いが、心情的には納得しがたい)。考えてみると、ロビーのやっていることは窃盗罪であり、それまでの傷害罪から犯行の内容が変わっただけだ。全然“真人間”になっていないのである。いくらこれをコメディ仕立てでやってもらっても、ほとんど笑えない。

 結局、この映画の一番の手柄は、ロビー役のポール・ブラニガンを監督が“拾って”やったことだろう。彼の生い立ちはロビーと似たようなものらしく、やはり無職の身に幼い息子を抱えて途方に暮れていたところを採用されたという。演技経験の無い若造が一本だけ映画に出たところで事態が劇的に好転するとは思えないが、ギリギリのところでフォローしてやったという“実績”は残る。こうしたローチ監督の実践主義は評価されるべきだとは思う。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 名護屋城跡に行ってきた。 | トップ | AVANTGARDE AC... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(た行)」カテゴリの最新記事