元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「福沢諭吉」

2010-01-10 07:21:54 | 映画の感想(は行)
 91年作品。幕末から明治にかけての日本の激動期において活躍した福沢諭吉の半生を描く伝記映画。企画自体は全然新しくなく、公開当時でもそれほど一般の観客(前売券を大量に売りつけられた会社の関係者は除く)を呼べる映画ではなかったことは確かである。私も普段なら無視したところであるが、監督が「Wの悲劇」「ラブ・ストーリーを君に」などの澤井信一郎なので思わず観てしまった。

 当時の澤井監督の演出力はかなりのものだった。作風はスタイリッシュで現代的だが、対象をしっかりと見据える目があるので、説得力がある。時代劇を撮るのは初めてということで、この題材をどう料理するか期待したのだが・・・・・。

 ハッキリ言って失敗作だ。東映作品らしい大時代的なハッタリと澤井監督のスマートな演出が完全にずれている。現代劇では冴えを見せるワンシーン・ワンカット技法やスクエアーな画面造形も、大ざっぱに展開する芝居がかったシナリオとケレン味たっぷりの語り口の前では、しょせん水と油。結果としてきわめて居心地の悪い、妙な雰囲気の作品になってしまった。

 セリフが聞き取りにくいのには閉口した。ひょっとしてライブ録音したのではないだろうか。こういう伝記ものではちゃんと言っていることが観客にわかるようにしないと意味がない。それと戦闘シーンの迫力のなさ。いっそのこと省略した方がよかった。

 何より困ったのは、福沢諭吉がどうしてそんなにエライ人なのか伝わってこないところだ。総花的な伝記映画にしようとしたことに無理があったのではないか。ひとつのエピソード(たとえば諭吉と中津藩家老の奥平外記との確執など)を広げて澤井監督風に料理する方法をとるべきであった。キャストも主演の柴田恭兵をはじめ弱体気味で、あまり登場人物に作者が惚れこんでいないという印象を受けた。

 製作は東映だが、バックについている製作委員会(出資企業の団体)というのはもしかして慶応大学出身者が中心になってたりして・・・・。そうでなければこういう没個性な企画が通るわけがなかったと思う次第。

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