元・副会長のCinema Days

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「不能犯」

2020-05-16 06:55:21 | 映画の感想(は行)
 2018年作品。若年層向けのホラー作品を多数手掛けている白石晃士監督の作品を初めて観たわけだが、なるほど決して重くならずにテンポ良く話を進め、後味サッパリと仕上げるという、ある種“職人気質”みたいな持ち味で登板回数が多いのも頷けた。出来自体はとても真っ向から批評するようなレベルではないが、これはこれで割り切って観れば良いのではないかと思う。

 ある電話ボックスに殺してほしい人間の名前とその理由を書いた紙を貼り付けると、ナゾの男がその依頼を引き受けてくれるという噂話がネット上で飛び交っていた。そんな折、都内では変死事件が連続して発生し、現場では必ず黒スーツの男が目撃される。宇相吹正と名乗るその男は、赤く光る目で見つめるだけで相手を死に追いやることが出来た。



 ある一件で宇相吹は所轄の警察に拘束されるが、取り調べに当たった刑事をその“能力”で殺害した後、姿を消す。ところが署員の一人である多田友子に対しては、宇相吹の“能力”は通用せず、彼女は身を挺して宇相吹を追う。一方、町では爆弾テロが続発し、友子たちはそちらの捜査にも当たらなければならなかった。宮月新と神崎裕也による同名コミックの映画化だ。

 まず、宇相吹に“仕事”を依頼する者たちの思慮の浅さに脱力する。挙動不審な町内会長を事情も知らずに消そうと思った男や、一度冷たく扱われただけで姉に対して殺意を抱く妹、仕事の出来る後輩を妬ましく思っている奴、いずれも動機が軽すぎて説得力が無い。宇相吹は傷つけば血も出る生身の人間のはずだが、普段何をやっているのか想像が付かない。爆弾魔の存在はまあ興味深いが、終盤に正体を現すそいつの造型はただの“中二病”だ。

 そもそも、出てくる捜査員がまったく警察官に見えないのには参った。お手軽なテレビの刑事物だったら許されるのかもしれないが、スクリーン上では辛いものがある。ただ、ストレス無くドラマが展開していく点は認めて良い。宇相吹の手口はけっこう面白いし、さらに彼に“仕事”を依頼した者はたいてい破滅していくという設定は悪くない。このノリで行けば続編をいくらでも作れそうだ。

 宇相吹に扮する松坂桃李は笑ってしまうような大芝居だが、このぐらいのハッタリは許容範囲内だろう。対して、友子役の沢尻エリカの演技はヒドい。表情もセリフ回しも一本調子だ。例の一件により今は彼女は芸能界から遠ざかってしまったが、日本映画界にとってはそれで良かったとも言えよう。

 また新田真剣佑に間宮祥太朗、真野恵里菜、芦名星、矢田亜希子、安田顕、小林稔侍と脇はそこそこの面子が揃っているためか、ドラマが大きく崩壊することはない。白石監督のスムーズな仕事ぶりも含めて、時間があれば観ても良いという水準には達している。

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