元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「愛の新世界」

2008-07-04 06:31:53 | 映画の感想(あ行)
 94年作品。本作の原作はルポライターの島本慶が風俗嬢64人たちの生の声をもとに書き上げた文章に、荒木経惟による写真を挿入したもの。出来そのものの評価は高く、94年のキネマ旬報ベストテンにもランキングされている。監督は「獅子王たちの夏」(92年)などの高橋伴明。

 アングラ劇団に所属するレイ(鈴木砂羽)は、劇団員の男ども全員の性欲を処理してやるかたわら、アルバイトとして渋谷のSMクラブで“女王様”をやっている。ホテトル嬢のアユミ(片岡礼子)はレイの友人。毎晩様々な男の相手をしながらも、平凡な結婚を夢見ているらしい。映画はこの2人を中心に、レイが属する劇団の新作公演までを描く。

 主人公の2人の関係は、以前感想を書いたフランス映画「ミナ」でのヒロインと友人の関係と比べてみれば面白い。「ミナ」では、女性同士の麗しい“友情”など存在せず、あるのはエゴの発散のみだと断定し、それだけに作者の内面描写の厳しさも印象的だった。対して「愛の新世界」の2人は一見何も屈託がない。似たような商売やってるし、男なんて屁とも思わず周囲の白い目も関係なく、ただタフに今を生きていく。

 まず、やはり単純に“若い2人はいいなあ”と感心する。2人が夜明けの街を荒木一郎の往年のヒット曲「今夜は踊ろう」(歌っているのは山崎ハコだ!)に乗って、全力疾走する場面を延々とカメラの横移動のワンカットで捉えるシーンは本当に素敵。2人の関係はベタベタしていない。実にあっさり、軽やかだ。主演の鈴木のふてぶてしい表情もいいが、脱いだときの圧倒的なワイセツさは見ものである。実にエッチでスケベだ。モデルのような肢体の片岡も、ちょっと影が薄くなる。

 さて、一見爽やかな青春映画のようで肌触りはいいこの映画。実はそこが少し不満な点でもある。いくら屈託のない女性同士の友情といっても、けっこう物理的にシビアな生活を送っているからには、屈託のないはずがないのだ。それでもかけがえのない友情があると言うならば、そこには同類相憐れむといった低次元の感情とは別の重い何かがあって当然だが、映画はそこまで描かない。レイと客との関係にしても物足りない。自ら痛い思いして“女王様”に会いに行く客たちに、切迫したものが感じられない。ここでのSMプレイは文字通りの“プレイ”でしかなく、いくらヒロインが頑張っても、漫然とした時間が流れるだけである。SMの淫媚さやみっともなさ(経験ないので具体的には知らないけど ^^;)をジリジリ描き出してほしかった。

 その代わりにあるのは、ヒロインの自宅のアパートの造形に代表されるように、いたずらに気取った意匠と映像である。イメージ・フィルム的で観ていて心地よいが、どこか違う気がする。萩原流行や武田真治、杉本彩ら脇のキャラクターも、外見は面白いけど、真に中から“立って”いない。

 感じはいいが、薄味で物足りない映画ということになるだろうか。この作品がもしピンク映画3本立ての中の1本だったら、意外な掘り出し物に喜々として感想を書いただろうが、封切館の1本立てとなるとそうはいかないのだ。

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