元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「To Leslie トゥ・レスリー」

2023-07-17 06:15:08 | 映画の感想(英数)
 (原題:TO LESLIE )多分に“甘い”ところもある筋立てながら、最後まで惹き付けられたのは主人公の突出した造型と、絶妙な周囲のキャラクター配置、そして名人芸的な演出ゆえである。本国では単館上映から始まり、興行成績も大したことがなかった作品だが、この映画を“発掘゜して賞レースを賑わせるまでに押し上げた演技派俳優たちの慧眼を大いに認めたい。

 テキサス州西部の田舎町に住むシングルマザーのレスリーは、数年前に宝くじに当選して大金を手にするものの、その金はすべて酒代に消えて今ではホームレス同然の生活を送っている。とうの昔に家を出た息子のジェームズは、そんな母を見かねて昔の友人ナンシーとダッチのもとへ身を寄せるように手配するが、相変わらず酒を手放せない彼女は周囲とトラブルを起こすばかり。そんな中、レスリーは偶然スウィーニーというモーテルのマネージャーと知り合う。スウィーニーは彼女に仕事と住まいを与え、何とかカタギの生活を送れるように面倒を見る。



 ヒロインのキャラクター造型が絶妙だ。とことん自堕落なアルコール依存症の中年女だが、どこかピュアな部分を持ち合わせており、世間から完全に見捨てられるところまでは行っていない。特に、くだんのモーテルの敷地内にある、元はアイスクリームショップだった店舗の廃墟に執着するというモチーフは効果的。幼少の頃に、彼女はこの店のスイーツを食べている時が一番幸せだった。

 斯様に本当は人生に背を向けていないあたりが、スウィーニー及び(いずれも孤独を抱えている)その仲間たちと意気投合できた理由でもある。彼女が今まで周りの人間と衝突しながらも、不器用ながら確実にコミュニケーションを積み上げてきたことが、終盤の“怒濤の展開”に通じているのだろう。主演のアンドレア・ライズボローの存在感は圧倒的で、ひょっとして“地”ではないかと思うほどレスリーそのものにしか見えない。個人的には本年度の主演女優賞を進呈したいほどだ(笑)。

 オーウェン・ティーグにスティーブン・ルート、アンドレ・ロヨ、ジェームズ・ランドリー・ヘバート、マーク・マロン、そしてアリソン・ジャネイといった脇のキャストも絶妙で、皆地に足が付いたパフォーマンスを見せる。監督のマイケル・モリスはテレビドラマのディレクター出身とのことだが、達者な仕事ぶりだ。ラーキン・サイプルのカメラによる乾いたテキサスの荒野の描写も心に残る。

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