元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「猿楽町で会いましょう」

2021-06-28 06:22:22 | 映画の感想(さ行)
 石川瑠華扮するヒロイン像が光っている。近年では深田晃司監督の「本気のしるし」(2020年)で土村芳が演じた悪女がインパクトが強かったが、本作の石川も負けていない。こういう女に関わったら身の破滅だと思わせるようなヤバさがある。また、他のキャラクターも丹念に掘り下げられており、辛口の人間ドラマとして見応えがある。

 主人公の小山田修司は売れないフォトグラファーで、いつかファッション関係の素材を撮りたいとは思っているが、今は単価の低い雑貨の宣材写真を手掛けて糊口を凌いでいる。ある時、修司はひょんなことから読者モデルの田中ユカの写真を依頼される。意気投合した2人は、渋谷の猿楽町のアパートで暮らすこととなり、撮った写真も賞に入選するなど修司にもようやくツキが回ってきたように思えた。だが、ユカは実は別の男の部屋に出入りしていることが発覚。さらに、彼女はモデルの仕事を得るために怪しげなバイトに手を出していることも明るみに出て、修司は困惑するばかりだった。



 ユカの造型が出色だ。彼女には漠然とした上昇志向らしきものはあるが、それ以外は見事なほどにカラッポである。彼女の物言いはすべて他人からの受け売りで、主体性のカケラも無い。しかも、他人が自分より先んじていることに対するジェラシーはあるらしく、陰湿なマネをすることに躊躇はない。それでいて、イノセントで男好きのする外見であるため、交際相手には困らなかったりするのだ。

 映画はそんな彼女を、一点の救いも無く描く。その容赦のなさは、一種のスペクタクルだ。ついでに言えば、修司を除いた他の連中もクズばかり。自分のためならば平気で他人を利用する。だが、中身の無いまま浮遊したように日々を生きるユカのクズっぷりには敵わない。いわばこの映画は“クズの中のクズ”を決めるバトルロワイアルみたいなものだ(笑)。そんな中にあって、修司だけはこの状況にしっかりと対峙することになり、いわゆる若者の成長物語になっているあたりが見上げたものだ。

 これが初の商業監督映画となる児山隆の演出は堅牢で、時制を3つに分けるテクニックも鮮やかに決まる。作劇のテンポが滞らないのも感心した。修司役の金子大地は、理不尽な事態に直面して我を失う一歩手前のディレンマをうまく表現して高得点。

 栁俊太郎に小西桜子、前野健太、長友郁真といった脇の面子もクセ者揃いだが、やはりユカに扮する石川のパフォーマンスは凄い。何を考えているのか分からず、何をしでかすのか全く予想できない。この年代の女優の中では群を抜く個性派で、今後の活躍が期待できる。松石洪介の撮影と橋本竜樹の音楽も的確な成果を上げている。
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