元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「明日の食卓」

2021-06-19 06:22:15 | 映画の感想(あ行)
 先日観た「茜色に焼かれる」と似たパターンの映画だ。つまり、キャストは熱演だが筋書きに無理があるということ。もっとも、本作の脚本の不備は「茜色に焼かれる」に比べれば大きくはないとも言えるが、それでも普遍性と共感性には欠ける。こういうネタはリアリティの有無が決め手になるが、そのあたりが煮詰められていない。

 主人公は神奈川県在住で2人の息子とカメラマンの夫に囲まれる43歳のフリーライターの石橋留美子、静岡県に住む年下の夫と優等生の息子と暮らす36歳の専業主婦である石橋あすみ、大阪在住でコンビニのアルバイトと工場勤務を掛け持ちしながら一人息子を育てる30歳のシングルマザーの石橋加奈の3人。彼女たちは面識は無いが、長男が“石橋ユウ”という名の小学5年生であることだけは共通している。また3人はいずれも家庭内に問題を抱えているが、そんな折、一人の“石橋ユウ”が母親に殺害されるという事件が起きる。椰月美智子による同名小説の映画化だ。

 3人のヒロインのうち、何とか造型がサマになっているのは加奈ぐらいだ。彼女の夫はヨソに女を作って家出したため、加奈は家計とローン返済のため絶えず仕事に追いまくられている。だが不況で工場の職を失い、おまけにロクデナシの弟が家に転がり込む始末。ところが大阪の下町の雰囲気が、そんなバタバタした“定番の不幸話”を巧みに中和して訴求力の高い人情話に仕上げられている。

 だが、留美子の夫はリストラされてから常軌を逸したダメ男に変身し、子供たちも元から常軌を逸した悪ガキだ。対して留美子はなぜかコンスタントに仕事が入る。斯様に現実味は希薄だ。あすみの境遇に至っては、子供はサイコパスで夫や義母や周りの連中もロクなものではなく、リアリティの欠片も無い。ハッキリ言って、加奈のエピソード以外は不要だ。

 映画は、殺された“石橋ユウ”はいったい誰の息子なのかというミステリーも加味されるが、これがまた肩透かしというか、到底納得できるものではない。瀬々敬久の演出はパワフルで悪くないとは思うが、シナリオに瑕疵があるのでチグハグな印象を受ける。

 ただし、俳優陣は良くやっている。ヒロイン役の菅野美穂と高畑充希、尾野真千子は頑張っている。特に菅野は久々の映画出演で気合十分だ。真行寺君枝の怪演は凄いし(笑)、山口紗弥加に烏丸せつこ、山田真歩、藤原季節といったクセ者たちも持ち味を出している。そして終盤に数分だけ登場する大島優子の演技には感心した(これでやっと彼女もアイドルを完全卒業だ ^^;)。花村也寸志の撮影と入江陽の音楽は水準をキープしている。
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