元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「土曜の午後に」

2020-09-25 06:28:58 | 映画の感想(た行)

 (原題:SATURDAY AFTERNOON)アジアフォーカス福岡国際映画祭2020出品作品。昨今のコロナ禍によってこのイベントも今年度は規模が大幅に縮小され、上映本数も開催期間もスケールダウンした。唯一観たのがこのバングラデシュとドイツの合作による映画だが、内容はかなり強烈でインパクトが大きい。あまりの過激さにバングラデシュ国内では上映禁止となったらしいが、それも頷けるほどだ。

 2016年7月1日、ダッカのレストランに7人のテロリストが乱入。人質を取って警官隊とにらみ合うが、結果として17人の外国人(日本人も含む)をはじめ計20人が殺害される大惨事となった。映画はレストラン内での、人質とテロリストとの駆け引きを描き出す。

 本作の最大のアピールポイントが、86分の上映時間で一度もカメラを切り替えていないことだ。つまり、ワンカットで撮られているのである。しかも、最近公開された「1917 命をかけた伝令」のような“疑似ワンカット”ではなく、正真正銘のカメラ一台での作劇のように見える。実話を基にしており、しかも舞台をレストランのワンフロアに限定している分、この手法が大きな効果を上げている。

 テロリストたちは全員が狂信者で、イスラム教徒(スンニ派)以外はすべて敵だと思っている。たとえ相手が回教徒であっても、難癖を付けて容赦なく始末する。この、ほとんど理屈が通用しない殺戮マシーンである彼らの恐ろしさは筆舌に尽くしがたい。だが、彼らはインド人に対して病的な敵愾心を抱いており、それを利用して人質の一人が策略を練るあたりが、ドラマとして盛り上がるモチーフになっている。この筋書きは秀逸だ。

 モストファ・サルワル・ファルキの演出は粘り強く、最後まで観る者を引っ張ってゆく。もっとも、テロリストたちが人質のそばに無造作に銃を置いたり、漫然と窓際に立っていたりと、気になる点はあるのだが、それでも映画自体の求心力は衰えない。

 今回の映画祭はコロナの問題によりゲストは誰も呼ばれていないが、上映前には監督からのビデオメッセージが映し出された。監督はここに描かれた事実の陰惨さと共に、未来に対して一筋の希望を織り込んだと述べていたが、劇中の人質たちの勇気ある行動はそのことを体現していると言える。キャストのパフォーマンスも万全で、これはぜひとも一般公開を望みたい。
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