元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「Hole」

2018-02-16 06:39:25 | 映画の感想(英数)
 (原題:洞)98年作品。台湾の異能ツァイ・ミンリャン監督の作品の中では、一番“分かりやすい”映画ではないかと思う。もっとも、それは同監督のフィルモグラフィにおいての話であり、一般ピープルからすればハードルはまだまだ高い。ただし、ツァイ・ミンリャン作品としては異例のポジティヴな空気感は、普遍的な娯楽性を醸し出している。

 1999年の末、激しい雨は長い間止まず、街では突然歩けなくなり床を這いずるしかなくなるという“ゴキブリ病”なる奇病が蔓延していた。古いアパートに住む美美は、上の階からの水漏れに悩まされ、修理屋に工事を依頼する。ところが修理工が誤って床に穴をあけてしまい、上階の小康という男の部屋から美美の住処が丸見えになってしまう。



 その穴からは次々と厄介なものが美美の部屋に落ちてくるようになり、そのたびに彼女は後始末を強いられる。美美は小康に何度も文句を言うのだが、次第に2人の間には連帯感のようなものが生じてくる。だが、盛大な雨漏りによって美美の部屋が水浸しになった夜、彼女は“ゴキブリ病”を発症。階下の様子が変だと気付いた小康は美美に呼びかけるが、返事がない。映画はここから急展開を見せる。

 いつまでも降り続く雨、奇病のアウトブレイク、暗鬱な表情の登場人物達など、この映画の外観やモチーフはダークでイレギュラーなものばかり。しかし、基調は孤独な男女が思いがけず出会い心を通わせるという、典型的なボーイ・ミーツ・ガールである。それどころか、エクステリアが殺伐としているからこそ、主人公2人のピュアな心情が透けて見えるのだ。

 さらには、場違いとも思われるミュージカル・シーンが挿入され、観る者の胸をときめかしてくれる。ラストはこの監督にしては珍しい処理だが、ラブコメと見まごうばかりの演出に、笑いながらも感心してしまった。

 小康に扮するリー・カンションはツァイ・ミンリャン作品の常連で、今回も優柔不断な野郎を好演。相手役のヤン・クイメイも同監督とよくタッグを組む女優だが、根の暗そうな女を演じさせると実にうまい。第51回カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞。ツァイ監督は2013年の「郊遊 ピクニック」を最後に商業映画界から引退する意向を示しているが、もっと撮ってほしい。
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