元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「LION/ライオン 25年目のただいま」

2017-05-01 06:29:35 | 映画の感想(英数)

 (原題:LION)実録映画だが、実話であることに寄り掛かったような作りで、内容自体は褒められたものではない。しかも、よく考えれば題材そのものも特にクローズアップされるような話ではないと思う。主人公は単に運が良かったのだ。それ以上でも以下でもない。さらに言えば、他のキャラクターにも共感できず、観ている間は居心地の悪さを感じるばかりだった。

 インド中西部の田舎町に住む5歳のサルーの家庭は貧しかったが、それでも優しい母や頼りになる兄と一緒に楽しく暮らしていた。ある夜、仕事を見つけに行くという兄に無理矢理付いてきたサルーは、駅で停車中の客車の中で眠り込んでしまう。目が覚めると列車は走っていて、しかも回送車だから外に出られない。やっと停車した場所は大都市コルカタだった。あてもなく街をさまよう彼は、最終的に施設に入れられる。25年後、養子に出されたオーストラリアで成長したサルーは、ふとした切っ掛けで故郷を思い出す。彼はおぼろげな記憶だけを頼りに、自身のアイデンティティを探ろうとする。

 主人公が迷子になって養父母と巡り会うまでが、必要以上に長い。もちろん、彼の地での過酷な社会環境と辛酸を嘗める子供達の実情を描こうという意図は悪くはない。しかし、この映画のポイントは大人になったサルーが故郷にたどり着くまでのプロセスなのではないか。それをドラマティックに扱ってこそ、娯楽映画としての興趣が出てくるはずだ。

 サルーはGoogle Earthを使って自らの出生地を探ろうとするが、仕事も恋人も放り出して引き籠もった挙げ句、結論に達するくだりが拍子抜けするほどあっさりとしている。あとはお決まりのお涙頂戴劇が展開するだけ。

 この養父母も問題ありで、自分たちの子供を持たずに、第三世界の恵まれない子を迎え入れることを最初から決めていたという。世の中には子供が欲しくても出来なかったり、事情により子供を作ることを断念する夫婦もけっこういるのに、このオーストラリア人夫婦の過度にリベラルな姿勢は、一体何だと思ってしまう。さらに、サルーの他にもう一人養子を取るのだが、その扱いは不憫でやるせない。

 ガース・デイヴィスの演出は平板で、ここ一番の踏ん張りが利いていない。主演のデヴ・パテルは好演ながら、自分勝手であまり好きになれないキャラクターなので損をしている。ルーニー・マーラやニコール・キッドマンのパフォーマンスも悪くはないのだが、印象に残らない。エンドクレジットでの“インドでは毎年8万人行方不明の子供がいる。寄付は日本ユニセフへ”といった表記を見るに及び、力が抜けてきた。
コメント
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