元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「バクマン。」

2015-11-13 06:23:28 | 映画の感想(は行)

 とても面白い。漫画家という、地味でスクリーンに映えそうもない題材を思い切ったスペクタクルに仕上げてしまう、その切り口と巧みなストーリーテリングに感服した。しかも、一時的にでも少年マンガに親しんだことのある観客ならば、確実にその琴線に触れるような仕掛けも用意されている。

 高校生の真城最高は絵は上手いが、それを活かした道に進もうなどとは夢にも思っていなかった。ある日、同じクラスの秀才・高木秋人から一緒に漫画家になろうと誘われる。文才はあるが絵心がまるで無い秋人は、作画を担当してくれる人材を探していたのだ。プロの漫画家だった叔父を過労で亡くしていた最高は、当初は秋人のオファーを断る。だが、憎からず思っていた声優志望のクラスメイト・亜豆美保と交わした約束をきっかけに、最高は漫画家を目指すことになる。

 どうせやるならば、最高の発行部数を誇る週刊少年ジャンプでの連載を実現させようと、最高と秋人は漫画作りに勤しむ。ジャンプ編集部の服部に才能を認められ、手塚賞の準入選も果たし、いよいよプロデビューしようとした矢先、同年代の天才漫画家・新妻エイジが2人の前に立ちはだかる。

 大場つぐみと小畑健による原作漫画は読んだことはないが、かなりの長編らしい。おそらくは漫画家の仕事ぶりを丹念に追っているであろう原作を大きく逸脱し、映画ではケレン味たっぷりの映像ギミックが仕掛けられている。これが意外にも功を奏しているのは、漫画家の内面で起きている葛藤を見事に表現しているからだ。

 もちろん観客のほとんどはプロの漫画家の製作現場なんか知らないが、表現者が作品を生み出していく過程とはこのようなものであることを納得させるだけの映像の喚起力がある。青春映画のルーティンもしっかりと守られていて、主人公達は苦労を重ねて成長する。そのプロセスにも無理がない。

 漫画が雑誌に掲載されるまでの過程も、いくぶん駆け足だがシッカリと説明されているのも嬉しい。監督の大根仁は前作「モテキ」でも賑やかなヴィジュアルで観客の目を引きつけたが、脚本の不備もあって後半は息切れしていた。ところか本作では演出に粘りが見られ、最後まで緩みが無い。

 主人公役の佐藤健と神木隆之介は健闘しており、演技にハマり込んでいる。エイジに扮した染谷将大はまさに怪演で、この俳優の実力を再確認した。ヒロイン役の小松菜奈は「渇き。」の頃とは打って変わって魅力的に撮られているし、山田孝之やリリー・フランキー、宮藤官九郎、桐谷健太ら脇の面子も万全だ。

 そして、この映画の一つのハイライトがエンド・クレジットであろう。少年ジャンプの単行本の背表紙にスタッフ名が書かれているという、少年マンガ好きならば泣けてくるような仕掛けが施されている。サカナクションによるエンディング・テーマ曲も好調だ。
コメント
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