元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ペコロスの母に会いに行く」

2014-03-17 06:34:38 | 映画の感想(は行)

 確かに楽しめる映画ではあるのだが、これがキネマ旬報誌2013年ベストワンをはじめとする各アワードを獲得するほど特に優れた作品なのかというと、首を傾げざるを得ない。森崎東監督作といえば2004年製作の「ニワトリはハダシだ」のヴォルテージの高さに圧倒されたが、あれに比べれば本作は“軽量級”という印象を受ける。

 主人公の雄一は長崎市に住む中年男で、広告会社に勤めるサラリーマンであったが、不真面目な勤務態度のためクビになってしまう。しかし彼は漫画を描いたり音楽活動をするという余技があり、さほど困った様子も無くマイペースに日々を送っていく。ただひとつの気掛かりは、父さとるの死を契機に認知症を発症した母みつえのことだ。

 徘徊したり、汚れたままの下着をタンスにしまったりするようになった彼女は彼の手に負えなくなり、ついには介護施設に預けることにする。母と離れて暮らすようになった雄一は、苦労した少女時代や暴力夫との生活といったみつえの過去に思いを馳せるのだった。

 自身の体験を元にした岡野雄一による漫画の映画化である。まず感心したのは、長崎の町の雰囲気がよく出ていること。前にも書いたが、私は幼少の頃に長崎市に住んでいたことがあり、個人的な思い入れが強い。だから「爆心 長崎の空」だの「解夏(げげ)」だのといった長崎を舞台にしていながら描写がスカスカの映画に対しては殺意さえ覚える(笑)。その点、本作の佇まいは実に良い。

 そして雄一役の岩松了をはじめ、みつえに扮する赤木春恵、今は亡き父親を演じる加瀬亮など、キャストが万全のパフォーマンスを披露しているのも嬉しい。若き日の母に扮した原田貴和子の仕事は、彼女のキャリアの中でも最良のものになるだろう。しかも妹の原田知世まで出ているのだから言うことなしだ。

 しかし、演出タッチが古くさいのは気になる。ドラマ運びや俳優の動かし方が、悪い意味で往年の松竹大船調だ。つまりは通り一遍なのである。ホノボノとした雰囲気にマスキングされてよく分からないかもしれないが、雄一とみつえとの関係性は、あまり深く突っ込んで描かれてはいない。少なくともみつえの過去を描くパートよりも比重は小さいと思う。

 ギャグも一応は面白いのだが、高年齢層向けの“ゆるい”ものであり腹の底からは笑えない。特に主人公と竹中直人扮するナゾの男とのハゲをネタにしたくだりは、あまりのワザとらしさに脱力してしまった。

 認知症に対するネガティヴな見方を払拭するようなモチーフや、みつえの過去と現在とがシンクロする場面は興味深いのだが、ハッキリ言ってしまえばこれは原作に網羅されているものであり、映画自体の手柄ではない。オリジナル脚本で勝負した「ニワトリはハダシだ」とは、このあたりが違う。
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