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ありふれたFront

2017-11-17 | 雑記
もはやいつもの言葉だが、久しい更新である。

家から出歩かないようにするための理由として、オンラインゲームを再開したと、以前書いた。

無論、娯楽としてやっているのには違いないので、「拙はゲームに夢中になった振りをしているのである」などとは言わない。

どちらにしろ、外に行くと金を使うだけにはなる。ただ、人とおしゃべりすることや、馴染みのゴルフバーでスポーツの話を聞いたり、何ゆえかゲームの話やらアニメの話をするのも好きなのだが、先立つものがないので、上記になったという訳である。

とはいうものの、ずっとゲームばかりやっているわけではない。やたらゲームに時間を費やしているのには違いないが。

それはさておき、何やら見て回って、思い出した事を少し書いておこうかと考えた。


今から二十五年ほど前になろうか。家庭用のテレビゲームで大ヒットした商品は?というと、スーパーファミコンが出てこよう。

現スクウェア・エニックスの、当時はスクウェア・ソフトが発売した、とあるゲームがあった。

名を『FRONT MISSION』という。片仮名表記で「フロント・ミッション」である。

多分、この話自体はしたと思うが、そこはいい。

内容はシミュレーションという奴で、テレビゲームというものを見向きもしない人に判りやすく言えば、囲碁将棋と言えばいいか。

しかし、何事もシミュレーションではないかともいえるので、当時は言われなかったが、ストラテジー、つまり戦略ゲームといえる。
内容も将棋の如く、自軍の駒を動かしていって、敵軍の駒を撃破するというのが主な流れ。将棋と違うのは、升目に乗った時点で勝敗が決するのではなく、そこから戦闘が起こり、互いのHPを削りあったり、遠距離攻撃の場合は一方的に削ったり削られたりして、0になった方が負けとなる。

当時のゲーム雑誌で発売前に紹介されていたもので、当時も、今もあるジャンルである。
ストーリーがあり、それに沿って舞台が移行していくので、シミュレーションRPGというのが今も昔も、その手のジャンルの呼び名だった。

初めて見た時から変、というほどではないのだが、引っかかっていた事が一つ。

「フロント・ミッション」ってどう訳すのだ?というのがあった。

当時は中学生。英語を学校で習ったりするわけで、英和辞典だとかもあるし、なくても判るレベルの言葉ではある。

しかし、ミッションはともかく、フロントを「前」と訳すと意味が判らなかった。

弟と冗談で「前の作戦なんだ」などと言っていたが、やはり、腑に落ちなかった。


そして、何年か前。たしか、デーヴィッド・アイクの著作の引用だったか、それとも一時期持っていた『ムーン・マトリックス』だったかに、「FBIはFRBのフロント」だとかあったように思う。FBIはともかく、FRBであっているかは定かではない。

どこかの引用では、フロントというのは見せかけのものという意味だとあった。それで、上記の言葉となる。

FRBとやらの思惑やら行動を見せないようにするために、FBIという組織があって、活動しているという意味だといえるか。

というわけで、その「フロント・ミッション」のストーリーを紹介する。固有名詞だとかは余り書かない。後、細かい事実関係は間違えているかもしれないので、正確に知りたい方は、ご自身でお調べいただく。


舞台は近未来。2100年代だかの設定だったかと思う。架空の島で架空の国が資源を巡って争っていたが、停戦条約が結ばれた後に、主人公が所属する軍から指令が下る。
内容はというと、敵軍の工場を偵察してこいというもの。部下の恋人と親友とで、敵の基地へ偵察に向かう。
言い忘れたが、生身での行動ではなく、人型のロボットに乗っている。アニメで言えば、ガンダムみたいなものと思ってくれればいい。

無線でやり取りしながら、恋人が工場の中を覗き込むと、そこで絶句する。

不審に思った主人公が、どうしたのかと尋ねた矢先、待ち伏せしていた敵軍の部隊が出現し、恋人は囲まれ、乗っているロボットは一回り大きな敵軍の指揮官ロボットに撃墜されてしまい、それと同時に工場も爆破される。この爆破は敵軍の仕業である。

敵軍の、恋人を撃破した指揮官の台詞はプレイヤーには見えるので、敵がこの偵察のことを事前に知っていたことは窺える。

そして、これがきっかけで紛争が再発。主人公は軍を抜け、街の闘技場(ロボットでの賭け事)で荒んだ生活を送ることになった。
紛争の切っ掛けを作ったと非難されたことと、恋人を失ったことにより、自暴自棄になったのである。

そしてある日。主人公のもとに、ある男性が尋ねて来る。軍に戻らないか?と、その人物は語る。

傭兵軍を作ったので、それの部隊長にスカウトしたいのだという。

主人公はにべもなく断りかけるのだが、恋人が生きているぞと言われ(もしくは、仇を取りたくないか?だったか)、軍に復帰することとなった。

ここまでが物語の冒頭である。

で、どこが「フロント」か?となる。終りまでの流れをダイジェストでお送りする。

主人公が率いる部隊は、破竹の勢いで勝ち進んでいく。途中、恋人と会ったことがある人物に出会ったりしつつ、足取りを追っていくのだが、またもや停戦が結ばれ、恋人の仇たる敵軍の将校を倒すことは叶わなくなった。

そして、今度は島で活動するテロリストを倒せといわれ、テロリストの首魁を追い詰めるのだが、彼は「自分はテロリストなどではない」という。

その主張の真偽を問うため、テロリストの首魁に誘われた先で軍部の真実を目の当たりにし、主人公は軍に反旗を翻すこととなる。

さて、軍は何をやっていたのかというと、軍用ロボットに搭載するコンピューターの開発だった。

これだけなら、何がおかしい?となるのだが、その研究の責任者から聞いた話が驚愕の内容だった。

高性能のコンピューターにするために、人の脳を素材にする、というものだったのである。

話をした研究者は、当初は受精卵だか胎児の脳に、軍用ロボット向けの操作を施し、それを素材にするという研究をしていたそうだが、成人の脳を使うことは可能か?と軍上層部に問われたという。
理論上は可能である、と言葉を濁しつつも答えた後、その研究者は己の研究が唾棄すべきものだと思い至り、軍を脱走。そしてテロリストと軍からは呼ばれていた組織に匿われていたのである。

先ほど、恋人と会ったことがあるという登場人物に触れたが、彼女らが会った場所は病院である。

そして、その恋人はどこか別のところに移送されていた。そしてそれは、その脳みそコンピューターの製作現場だったというわけである。

これだけなら、石井給水部隊だとかナチスの研究だとかMKウルトラみたいだなで終れないこともないが、実は、冒頭の話に繋がる。

冒頭、主人公の恋人が覗き込み、余りの光景に絶句した工場が、それだったのである。

そして、紛争のきっかけと非難された主人公だが、実は対立している国家同士が共謀し、見せ掛けの紛争を起こすための茶番だったのである。

戦争になれば、死亡してなくても死亡扱いにし、大量の「素材」を合法的に入手できる。

敵対していると思わせながら、実はまごうかたなきビジネスでのお付き合いをしていたというわけである。

さて、結局恋人は果てていたのだが、なんと、冒頭で恋人を撃破した指揮官の搭乗機に搭載されていた。

恋人の仇を取ることが出来た主人公は、ライバル搭乗機の残骸から取り出した、変わり果てた恋人を自機に搭載するという荒業にでる。その上高性能で、自機以外は搭載不可。

ネットなんかでも、この流れはトラウマものとして語り継がれている。当時プレイしていた拙も、驚きの連続であった。


さて、ライバルを倒して終わりかというと、そうではなかった。

実は、そいつは生きていた。ただし、今度は機械に自身を搭載するという、脳みそコンピューターの進化系として登場し、ラストを飾る。

彼の語るところによると、脳みそコンピューターは、このための研究だったという。

ライバルを倒すと、よくあるような台詞を言う。「自分を倒したところで、何も終らないぞ」といった感じの台詞が、彼の末期の言葉だった。

その後、部隊にいた従軍記者がこの取材を元に、敵対国の軍が裏で繋がっているという暴露本を出版するが、当事国は知らぬ存ぜぬを通す。

主人公はテロリストとして、元首魁と共に、軍に素材として連れ去られていく人々を救出しているという後日譚が続くが、これは話が流れるだけで、ゲームとしての操作はない。

ある時の作戦で、敵の囮に嵌り、危機に陥るのだが、その時、かつての仲間達が続々現れ、窮地を救い出すというシーンで物語りは終了となる。


これが、子供向けのテレビゲームというジャンルで使われていたシナリオだというのだから、恐れ入る。すぐ上のエンディングの部分は少年漫画的というのは別として。


当時は脳みそコンピューターに驚いたものだが、「フロント」の意味がよく判った上で振り返ると、現代そのものであるといえる。

話が前後してしまうが、ラスボスでもある恋人の仇は、実は主人公所属からいうところの直接の敵対国の人間ではなく、物語上には名前しか出てこない第三国の人間で、詳しくは忘れたが、スパイだかなんだかだったらしい。

主人公に撃破されるが、この研究でもって祖国に世界の覇権を握らせようという目論見だったのだとか。


世の中の「フロント」というのは、もっと込み入っているのかもしれないが、目に付く、というより目に付かせるために見せびらかしているものは、決して本体ではないのだという事が判るかと思う。

昨今でそれは何か?ということは敢えてここでは書かない。もし、今まで拙が書いてきたことを読んできたというのなら、察しがつくかとは思われるが、なにぶん、拙も勉強不足というより、していないので、偏りが激しい。

今回の記事で紹介したシナリオで、ゲームのタイトル以外に固有名詞を出さなかった理由に想像がついたなら、それで十分である。

つまり、表立って名前がつけられているものは全て「フロント」なのだから。


では、よき終末を。