![]() | フリーズする脳―思考が止まる、言葉に詰まる (生活人新書) |
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(7)からのつづき・・・
意識して目のフォーカス機能を使う
その活動というのは、散歩するだけでもかまいません。
なるべく屋外に出て、ダイナミックに目を動かしましょう。
前後左右斜めに動かすだけでなく、意識して目のフォーカス機能を使うことが大切です。
自動的に調節されているのは目のレンズだけではありません。
身体論的いは、「内面的身体がそこまで伸びている」という言い方をしたりしますが、要するに、体全体の注意の向け方がそうなっている。
脳の、外界の情報を捉えようとするときのフォーメーション全体が変わっているということです。
それだけ脳がダイナミックに動いています。
そうやって遠近感に対応しているうちに、お休みの状態にしておいた脳機能のスイッチが少しずつ入っていき、周囲の情報をうまく取れる頭になってくる。
そうすると必然的に、入力される情報も多面的になってくるので、脳の使い方のバランスがとれてきます。
ところが、(PCにずっとしがみついているような)お仕事をされている方は、その切り替えをする時間が十分にとれない。
脳のフォーメーションを切り替えないまま寝てしまうことが多いと思います。
そういう生活を何か月も何年も続けてしまうと、問題は深刻です。
お休みの状態にしておいた脳機能がそのまま眠った状態になってしまう。
要するに、長時間使われていなかった神経細胞のネットワークが衰退し、スイッチを切った状態からスイッチを入れられない状態になってくる。
そうすると、いつも前方だけに集中しているような、周囲の変化に疎い人になってきます。
職場の人たちが「目の焦点が動かなくなる」というのは、情緒障害的な要素を取り除いて考えると、おそらく一つにはそういうことです。
これは目だけの問題ではなく、脳全体の問題であり、情報の取り方が小さくなてちるということが二次的な要因となり、さらなる脳機能の低下を招くことが考えられます。
立体感への対応が脳を動かす
誤解を恐れずに言えば、脳機能の豊かさは、立体感を捉えようとすることによって維持されているところがあります。
都度変化する情報をキャッチしながら、一つのものの立体感-質感、現実感と言い換えてもいいかも知れませんが、そういうものを多面的に捉えようとしているとき、脳はバランスをとりながら、よく動いているはずです。
しかも、それを連続的に処理している。
パソコンの画面に向かっているときでも、たとえばシミュレーションのようなものを操作しているときには、現実の立体感を捉えようとしているときと同じ脳の動きがあるのではないかと思われるかも知れませんが、人間の脳はそんなに単純ではありません。
たとえば、画面の中に空と海が映し出され、前方に点のように見えている島が次第に近づいてくる(ように見える)とします。
現実にそういう変化があり、その全体像を捉えようとすれば、目は盛んに動きます。
その分脳も動いている。
ところがバーチャルの世界では、距離感やディテールが刻々と変化して見えるといっても、それは同じ平面の中でそう見えるようにコンピュータの方でデジタル的に処理しているだけで、人間の目は固定状態です。
むしろ、目のレンズの方を動かしてしまったら、バーチャルな立体の不自然さが際立ってしまうでしょう。
そういうバーチャルな変化でもあればまだいいですが、プログラミングのようなお仕事で向き合っている画面となると、もっと変化がない。
目を動かす必要はほとんどありません。
同じ距離感で小さな平面を見続けているだけ。
これを一日中続けなければならないというのは、脳にとってもっとも悪い環境だと思います。
会話は脳の広い範囲を使う
入力の面での問題がある上に、出力の面でも「会話がない」という問題がある。
オンラインでのやりとりには、意志と表現の身体を媒介とする一体感が乏しいところがあります。
向き合っているのは同じ平面で、その前で表情を変えたり、身振り手振りを交えたりする人はいないでしょう。
出力の作業としてやっていることは、キーボードを叩いて文字を打ち込むだけ。
それがまた脳の使い方を偏らせます。
また、メールやチャットの文章というのは、平板にならざるを得ない面がないでしょうか。
現実の会話であれば、「この人にこの話を分かりやすく伝えるにはどうすればいいだろうか」と考えて、表現を工夫していく。
その中で思わず身振り手振りが混じってきたりするわけです。
言葉を使って表現を豊かにするというのは、出力だけでなく、脳の情報処理全体にも関わる問題で、前頭葉の機能が高くないとできません。
その訓練の機会がなくなってしまう。
さらに、面と向かってする会話では、レーダーとしての脳もフルに使っています。
相手の言葉を聞くだけでなく、音声を聞き分けたり、身振り手振りや顔色をうかがったりもしている。
それらも判断の材料にして、相手の思考や感情を読み取ろうとしているわけです。
会話というのは、入力、情報処理、出力のすべての面で脳をよく使う活動で、実際に会話をしているときの脳の状態を画像で見てみると、広い範囲が活発に動いていることが分かります。
入力を司る感覚野、処理を司る大脳連合野、出力を司る運動野の全体がスムーズに連動していないと、会話は成り立ちません。
そういう要素が、オンラインでのやりとりばかりになると著しく限定されてしまいます。
つづく・・・