「それってエルニーニョ現象の影響なんでしょう」「昨日3万円やられちゃった」「日本は沈没するの?」「日曜日に出すわけないだろうが、パチンコ屋が」「間違ってた、52歳です」「羨ましいな、歴史的瞬間を見れるのだから、最後の固まり」。僕は自分の職場が気になって、野上さんにきずかれないように立ち去る。これからどのように生きていけばいいのか?歩きながら考える。『若いときに迷えるだけ迷え!オレなんか今でも迷っているわ』と彼は笑いながらハナすが、僕は彼と話していると安心する。なにかオヤジに夢の中であったような気がする。
映子さんは今頃コンビニで何をしているんだろう…。午後の3時半に「おはよう」なんてヘンだと思ったのは入社した頃のこと。もうそれも慣れた、人間なんてなんにでも慣れるものだと思う。お金のためなら特にそうだと思う。
野上さんを知ったのはヒョンなことからだった。昨年の暮れに同じ職場の期間従業員が集まって『望年会』をした。『忘年会』にしなかったのは発案者?である馬さんの説明によれば、今年の出来事を忘れず来年に希望を持とうということらしい。しかし参加者はたったの4人、僕は下戸ではないが酒はあまり…でも楽しく会社や上司の悪口を言いながらYY.横のテーブルに座っていた2人のおじさんが、僕たちの話を盗み聞きしていたのか笑っている。ときどき僕を見ているのに気付いたが、その表情が親しげなのに驚いた。何者だろう?という想いが起こる。まさか探偵?そんな僕の疑惑を察したのか、「私はきみたちと同じヨタヨタ自動車に勤めているモンですよ」と僕に名刺を差し出しながら言った。ヨタヨタ自動車?語感から僕の会社のことを冗談交じりに言っているのかなと考えていると、「ハッハッハッ、下請け、じゃなかった!協力会社の人に言わせると、利益を追い求めてヨタヨタ走っているクルマに似ているらしいんだとさ、うちの会社は」。…労働組合、執行委員長、香月という文字が眼にやきつく。「私たちの労働組合はね、期間従業員の自給を100円上げることを要求しいるんだよ」「そんなことできるんですか?」と鹿さんが僕の手の中の名刺を覗き込んで、執行委員長に尋ねる。「ダメもとでやるしかないでしょ、それにその…」と香月さんはテーブルのうえに目線を落とし、僕もついテーブルを見た。「魚にしたって食べてみないと旨いかまずいかわからないだろう?」僕たち4人はお互いの顔を見合わせ、大皿の刺身を見た。「私たちの組合は今年の1月に新しく生まれた組合なんだよ、意見を聞かしてくれ」「きみたちの工場には私たちの組合員がいてね、何か困ったことがあったら彼に相談すればいいよ」と言いながら、手帳から紙を一枚切り裂いてなにやらかくはじめた。手渡された紙の表面には『野上』、僕らと同じ第2工場だ。「のがみさん?」「のうえ、と読むんだよ」。僕らはそのメモ書きを手渡しあった。終わり
映子さんは今頃コンビニで何をしているんだろう…。午後の3時半に「おはよう」なんてヘンだと思ったのは入社した頃のこと。もうそれも慣れた、人間なんてなんにでも慣れるものだと思う。お金のためなら特にそうだと思う。
野上さんを知ったのはヒョンなことからだった。昨年の暮れに同じ職場の期間従業員が集まって『望年会』をした。『忘年会』にしなかったのは発案者?である馬さんの説明によれば、今年の出来事を忘れず来年に希望を持とうということらしい。しかし参加者はたったの4人、僕は下戸ではないが酒はあまり…でも楽しく会社や上司の悪口を言いながらYY.横のテーブルに座っていた2人のおじさんが、僕たちの話を盗み聞きしていたのか笑っている。ときどき僕を見ているのに気付いたが、その表情が親しげなのに驚いた。何者だろう?という想いが起こる。まさか探偵?そんな僕の疑惑を察したのか、「私はきみたちと同じヨタヨタ自動車に勤めているモンですよ」と僕に名刺を差し出しながら言った。ヨタヨタ自動車?語感から僕の会社のことを冗談交じりに言っているのかなと考えていると、「ハッハッハッ、下請け、じゃなかった!協力会社の人に言わせると、利益を追い求めてヨタヨタ走っているクルマに似ているらしいんだとさ、うちの会社は」。…労働組合、執行委員長、香月という文字が眼にやきつく。「私たちの労働組合はね、期間従業員の自給を100円上げることを要求しいるんだよ」「そんなことできるんですか?」と鹿さんが僕の手の中の名刺を覗き込んで、執行委員長に尋ねる。「ダメもとでやるしかないでしょ、それにその…」と香月さんはテーブルのうえに目線を落とし、僕もついテーブルを見た。「魚にしたって食べてみないと旨いかまずいかわからないだろう?」僕たち4人はお互いの顔を見合わせ、大皿の刺身を見た。「私たちの組合は今年の1月に新しく生まれた組合なんだよ、意見を聞かしてくれ」「きみたちの工場には私たちの組合員がいてね、何か困ったことがあったら彼に相談すればいいよ」と言いながら、手帳から紙を一枚切り裂いてなにやらかくはじめた。手渡された紙の表面には『野上』、僕らと同じ第2工場だ。「のがみさん?」「のうえ、と読むんだよ」。僕らはそのメモ書きを手渡しあった。終わり