しばらく歩いていないので、体重は最高値安定を示し続けている。これではならじとようやく休みを取れたので、今日は近くの山を歩くことにした。東山三十六峰のうちの最高峰である比叡山を目指して登ろう。京都東山はほとんどがなだらかな山頂を持っているが、唯一三角形のピラミダルな山頂を示し、東山の北に偉容を示しているのが比叡山。天台宗の総本山延暦寺があることでも知られている。頂上には京都からも琵琶湖側からもケーブルカーとロープウエイがあり、観光客が詰めかけるところという印象を持っていたから、あまり登りたい山ではなかった。しかし、5万の地形図を眺めているうち、比叡山にも多くの登り口があり、下から登ればなかなかいいハイキングになりそうだと気がついたので、今日は下からゆっくりと登ってみようと思う。
登りは修学院のそばを流れる音羽川沿いの道から始まった。音羽川は琵琶湖疎水より少し大きい程度の川だが、完全なコンクリート三面張りの川で、まったく川という感じはしない。排水溝の印象だ。そのわけは上り詰めてみてよく分かった。大きな看板には「河川改修のモデル地域」とある。河川事務所が総力を挙げていろんな工法を使ってまるでオリンピックのように川をコンクリートで固めたところらしい。こんな工事をやってまったく恥じたところがないのが信じられない。彼らの頭の構造はどうなっているんだろう。川を殺して、そのやり方を得意げに展示している。どうすれば自然を壊さずに治水ができるかと考えたことなどないのだろう。
突き当たりで橋をわたり、登山道に入る。いきなりの急登が続く。北山と違ってここの岩質は花崗砂岩らしい。雨水がその岩を削って深さ1mほどの道ができている。その道に落ち葉がふかふかのベッドを作っている。あまり歩いた跡がない。この道は歩く人も少ないのだろうか。急な坂道を1時間ほども歩き、汗がシャツを濡らし始めた頃、ようやくやや平坦な道に出る。道の左側にはずっとコンクリートの柱とバラ線が張られていた。おかしいなと思っていたら、最上部の角に立ち入り禁止の立て札。どうやらこの内側は宮内庁の管轄らしい。ちょっと不満だが、ゴルフ場などに占領されているよりはまだましという感じ。内部はよく保護されている。
歩き始めて1時間を過ぎる頃までは、広葉樹の林が続いている。杉の人工林が多い北山とちがって、ここはなかなか気持ちの良い登山道だ。と思っていたら、中腹を過ぎた頃、杉と檜の人工林がうっそうとして始まった。そういえば、比叡山という言葉から受ける印象は、やはり杉の大木が林立する薄暗い山のイメージがある。なにかの時代劇で見た印象がそのまま残っているのかもしれないが、やはりその印象が強い。でも中腹から上は、その印象が当たっている。下の方は急坂、上は薄暗い杉林。昔から比叡山の修行僧の千日回峰行は有名である。しかし、こんな急な坂や暗い杉の林の中を1000日もの間、毎日早足で歩き続けることを考えると、つくづくすごいなあと思ってしまう。
家から遠くない近郊の低山と思って軽い気持ちで登り始めた比叡山だったが、登っているうちこれはバカにできないと思い始めた。麓の京都の町の標高が100mくらいなので、比叡山の頂上848mまで標高差は750mもある。これはちょっとした登山になりそうだ。
標高500m前後の見晴台に到着。京都の町がよく見えるが、遠くは霞がかかっていて、まるで春のようだ。ここの近くにケーブルカーの比叡山駅があるはずだが、今日は人っ子一人いない。おかしいなと思っていたら、どうやらケーブルカーは冬の休業期間のようだ。道理で人がいない。そこからハイキングコースを通って比叡山の頂上駐車場まで歩く。そこから進入禁止の札を見ながら、頂上の大比叡(848m)を目指す。巨大なテレビの中継アンテナが2基建っているあたりが頂上のようだが、三角点が見つからない。さんざん探してやっと塚のようなところに一等三角点を見つけ出した。ここまでついに一人の人にも出会わなかった。比叡山独り占めだ。
比叡山というのはいくつかの峰の集合を言う。もっとも高い峰が大比叡。そのすぐそばに四明岳がある。しかし、今はその周りは囲われて庭園になってしまい、入園するのには500円の入園料が必要で、しかも今は冬の休業期間になっている。というわけで、四明岳には足を踏み入れることができなかった。そこから比叡山の尾根伝いに北へ向かう。この尾根沿いには北比叡ハイウエイが走っており、尾根伝いの登山道のすぐそばを通っている。まったく景色が悪い。尾根から東には琵琶湖が見える。
やがてハイウエイも離れていき、尾根沿いの道はなかなか良い道となってくる。尾根の東側は杉や檜の人工林が続くが、西側つまり京都側は、落葉広葉樹林が広がり、なかなか雰囲気の良い林が続く。急な登りが始まるとまもなく横高山(745m)に着く。そのまま休まずにいったんオオダワに下り、さらに一気に直登すると、水名山(796m)に到着。時間も昼を過ぎ、縦走路にはいると少しは登山者の姿をみるようになった。
水名山を越えると、今度は再び杉林の中に入り、景色は見るべきものはなくなってしまう。あとはただひたすら足元を見ながら大原の里まで下るばかり。せめてもう少し登山道の周辺だけでも杉を切り払って欲しいものだ。そうすればどれだけ楽しい道になるかしれない。もっとも杉は金にするために植えているのだから、遊びに歩いている奴のことなんか知るかと言われそうだ。でも京都府の持ち林もあるのだから、もう少しハイカーのための環境にも気を遣って欲しいと思うのだが。
今日は6時間歩いたが、あまり身体が重く感じなかった。しばらく歩いていなかったので疲れるかもしれないと思って心配していたが、どうやらまだまだ歩けそうだ。ただ、二日前の職場の忘年会でボーリングに行ったのが後を引いていて、太ももの上部が痛い。普段使わないところを使った性だ。なにしろボーリングなんて20年ぶりくらいなのだから。