いまから10年くらい前の朝日新聞の天声人語で、次のような内容の話題が書かれていた。
東京工業大学の平沢教授は「1960年の調査では、人が直立したときの重心は足裏の長さを100%とすると、かかとから47%の位置にまで後退していた。以前と比べると、そっくり返るようになっている。この調子だと2000年には重心が33%の位置にまで後退し、人間はいつか自力で立つことができなくなるのでは」と心配している。
それではこの予測はどうなっただろうか?大阪大学の生田教授らが2001年に小学生で調べた結果、37-39%という値が出た。平沢教授の予測よりはやや良かったが、運動不足のために筋力が不十分で、高齢者のようにかかとで体重を支えているとみられ、子供たちが長時間立っていられなかったり、すぐ転んだりというひ弱さの原因になっているという。
この原因は、下駄による生活から靴と椅子による西洋風生活に転換した結果、足の裏全体で身体を支えるという習慣が無くなり、重心がより後ろに偏るようになったと見られる。つまり、自分で身体を支えないで椅子に寄りかかったり、足の負担を減らした靴を履くようになったことが原因なのだ。それはなぜか? つまり、よりかかるものは歩けなくなる、寄り掛かった生活は自立できなくなるということ。身体に良いことと思ってやることが身体を退化させる。身体はもっといじめてやる方がいいのだ。
このことはすごく暗示的だ。身体に限らない。精神もどうやらそういう構造に組み込まれてきているような気がする。ちやほやされて育った人間は、ちょっとした批判にさらされると、論理的に対応できなくなる。感情的になって、キレる。身体は心と同一なのだ。

