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日本酒-10 / ■味覚からのネーミング

■ 味覚からのネーミング - 淡麗辛口、濃醇濃口、日本酒度、酸度など -


「淡麗辛口」「濃醇濃口」などのラベルが貼られている酒がありますが、これは味・飲み口をあらわしたものです。


〔 酒質を物語る裏ラベル 〕

<日本酒度>
よくつかわれる数値指標に”日本酒度”があります。
15℃に調温した酒に規定の浮秤(ふひょう)を浮かべて計測し、4℃の蒸留水と同じ重さの酒を0とします。
それよりも軽いものは+の値、重いものは-の値としますが、糖分が多い甘口の酒は比重が重いためマイナスの数字が大きくなり、糖分が少ない辛口の酒は比重が軽いのでプラスの数字が大きくなるという性格があります。

 
【日本酒度+12度の地酒】
小富士  本醸造酒 島田酒造(株)/愛媛県東温市 精米歩合65%

「日本酒度が高い」というのは+の値が大きいことで、一般に「辛口」の酒とみなされます。
-値が高いのは「甘口」とされますが、酒の甘辛は酸度などとも関連するので一概にはいえないという見方もあります。
また、厳密に酒の甘辛をあらわすには、ブドウ糖濃度と酸度から算出する”甘辛度指標”をつかうべきという意見もあります。

なお、日本酒度の平均は時代とともに大きく変動し、江戸期から戦前にかけては大きく+(辛口)に振れていたそうですが、戦後「甘い物=贅沢・高級品」という風潮もあってか、日本酒度は大きく-(甘口)に振れました。
近年は辛口志向がつよまり、+2度くらいが「中口」とみられています。

<酸度>
酒中の乳酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸などの酸の量をあらわす指標で、ふつうは日本酒度とあわせて飲み口をあらわすバロメーターとされます。
一般には、酸度が高いと「濃醇」系、低いと「淡麗」系になるといわれますが、酸は味を引き締めキレやハリをもたらすともいわれるので難しいところ。
「濃醇」とは酒味が濃いこと。「淡麗」とはすっきりとした清冽な飲み口で、対の表現とされます。
吟醸酒は淡麗系のものが多くなっています。

<日本酒度 & 酸度>
この2指標の組み合わせにより下記の区分でチャート化されます。
1.「淡麗辛口」:日本酒度は+に高く、酸度は低め。
2.「淡麗甘口」:日本酒度は0附近から-側に振れ、酸度は低め。
3.「濃醇辛口」:日本酒度は比較的低く、酸度が高い。
4.「濃醇甘口」:日本酒度は0附近から-側に振れ、酸度は高め。
ただ、このチャートの仕切線は+型ではなく↓のように斜線が交差するかたちをしていて、読み方を複雑なものにしています。


〔日本酒のチャート〕 ※各種資料をもとに筆者作成

一般に、酸度が高いと辛口に感じる傾向があるとされます。
酸が多いと糖分が多くても辛く感じ、すくないと糖分が少なくても甘口に感じます。
チャートでみると、日本酒度+5度でも酸度が低ければ「淡麗甘口」、-5度でも酸度が高ければ「濃醇辛口」となり、日本酒度の+-だけでは甘辛は測れないことがわかります。

わたしはどちらかというと淡麗辛口系の酒が好きですが、+8度でも雑味が多くしっくりこない酒があり、0度前後でもすっきりした飲み口のものがいくらもありました。

<アミノ酸度>
一般に、酒中のアミノ酸が高いとどっしり濃醇、低いとすっきり淡麗な飲み口になるので、「アミノ酸度」を表示する蔵元もあります。
アミノ酸が多すぎると雑味に通じることもあるので、低く抑えようとする傾向があるようですが、酒中アミノ酸の種類は多岐にわたり、独特の旨味や奥のふかい風味を生み出すこともあって、旨味やゴク味(多彩な要素がほどよく調和している味)の指標としている酒通もいます。

なので、アミノ酸度の低い酒がかならずしも良酒とはいえません。
ここらへんは嗜好性の高い日本酒、ひとすじ縄ではいかないところ、「日本酒は数値では語れない」といわれる好例かと。

べつに↓のような表現もあります。
<芳醇(豊醇)>
甘辛、味の濃淡よりはむしろ香りの高さを表現しているようです。

<旨口>
辛口を感じやすいキレよりも、コクと奥行きが卓越するふくらみのある味わい。
甘口と混同されやすいが、ちがうものとされます。

<濃口>
おそらく、酒味が濃くしっかりした酒質のものを指すのだと思います。
濃醇とは同系なので、「濃醇濃口」といった表記がみられます。

「『辛口』が好み」という人の話しを聞いてみると、辛口というよりはすっきり淡麗で飲みやすい(=濃醇甘口でない)という意味でつかっていることが多いような気がします。
「この酒、辛口じゃないけど美味しいね」という場合は”旨口”の酒。
「甘口すぎてちょっと・・・」という場合は、酸度が高く雑味が多く、いわゆる「さばけが悪い」酒を指していることが多いように感じています。
このあたりは個人の感覚なので、混沌としていますね。

 
【下越の銘醸、〆張鶴】
〆張鶴 月(本醸造酒) 宮尾酒造(株)/新潟県村上市 精米歩合:麹米55%、掛米60%

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まあ、いろいろと長々書きましたが、日本酒も温泉と同じで、いくら机上で蘊蓄を知ってもそれだけではなんにもなりません。
まずはいろいろと飲んで(入って)みることだと思います。
どちらも個人の好みがつよいので、マスコミや人が×をつけても、自分がいいと思えばそれで佳し、かな。

それにしても日本酒は深い!。世界に冠たるお酒であることはまちがいないと思います。


バックが凄い!
とくに川江美奈子(Chorus)と田中義人(Guitar)。



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日本酒-1
日本酒-2 / 1.玄米
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日本酒-9 / 9.濾過・火入れ(2回目) ・ 10.割水
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日本酒-9 / 9.濾過・火入れ(2回目) ・ 10.割水

9.濾過・火入れ(2回目) - 生貯蔵酒、生詰酒、ひやおろし、生一本 -

ふつう貯蔵・熟成のあと、2回目の濾過、割水、2回目の火入れを経て、瓶詰、出荷となります。
これらの工程の有無で複雑な呼び分けがなされ、「生酒」系日本酒をいっそうわかりにくいものにしています。

「生貯蔵酒」(「生貯」(なまちょ)・「先生」(さきなま))は、1回目の火入れ(酒質を安定させるための火入れ)をせずに貯蔵し、瓶詰め前に火入れされたもの。
火入れをせずに貯蔵に入ると発酵が継続し、アミノ酸分解や糖化により風味が調和する”調熟作用”が働きますが、これを狙ったものと思われます。
「生詰酒」(「後生」(あとなま))は、1回目の火入れをし、2回目(瓶詰前)の火入れをしないもの。
「生酒」(なまざけ/「生生」「本生」)は、火入れを1回もしないもの(=本来の意味での「生酒」)として区別されているようです。

冬季に醸造・火入れして春・夏を涼しい酒蔵で貯蔵・熟成させ、秋に2回目の火入れをせず瓶詰・出荷されるのが「ひやおろし」
火入れして安定した酒は春~夏にかけてゆっくりと熟成され、新酒の荒々しさがこなれて円熟味を増していきます。
秋に向けて味を上げていくことから”秋上がり”するといわれ、逆に思うように熟成が進まず旨味が生まれなかったものを”秋落ち”といいます。
”秋上がり”した酒を「ひやおろし」として出荷しますが、「秋上がり」というネーミングもたしか見たことがあります。

旬は9、10、11月で、日本名門酒会のHPによると、出荷時期によって、「夏超し酒」(なごしざけ)、「秋だし一番酒」、「晩秋旨酒」と呼び分けているようです。
秋が深まるにつれ、熟成がすすんで濃淳さを増していき、「晩秋旨酒」は「お燗にしても美味しい」そうです。
「ひやおろし」は銘柄にもよりますが、どっしりとした重さを感じるものが多いので、それに負けない味のしっかりとした酒肴との相性がいいように思います。

「ひやおろし」は2度目の火入れをしておらず、秋の旬酒でもあるので早めに飲みきるのが粋とされています。

10.割水
並行複発酵を用いて醸される日本酒はもろみの段階では20度近いアルコール濃度があり、ふつう貯蔵や熟成も高い度数を保ったままでなされますが、出荷前にアルコール度数を整えるためおこなわれるのが割水です。
ふつう、”加水調整用水”といわれる質の高い水がつかわれます。

じっさい、多くの清酒は15~17度なので、割水調整されているとみられます。
割水工程以前に出荷される酒は、アルコール度数が比較的高くなります。

ついでに水についてもふれておきます。
「名水あるところに良酒あり、良酒あるところに名水あり」といわれます。
硬度14度を超えるような硬水では、リンやカルシウムなどが多くなり酒質を落とすとされますが、日本の水は軟水が多く、日本酒づくりに向いているといわれます。
ただ、軟水であればいい酒ができるというとそういうことはなく、日本有数の名水といわれる西宮の「宮水」は硬度10程度の中硬水だそうです。
一般に硬水系だと酵母の発酵を助けるカルシウムやマグネシウムが多いので、発酵時間が短く、酸度の高い辛口でしっかりとした飲み口の酒、軟水系だとその逆で酸度低めのやわらかな飲み口になるとされます。
よく引き合いに出されるのが、硬水をつかった男酒、灘の酒と、軟水をつかった女酒、伏見の酒です。
さらに重用視されるのが鉄分の有無で、鉄分の多い水ではけっしていい酒は醸せないとされます。

「名水は腐らない」といわれます。
ふつうの水では一度に大量の水を仕込むと腐りやすくなるので、米十石に対して水六石程度がせいぜい。これでは効率が悪いし、しかも鈍重な酒質に仕上がりやすいそうです。
ところが「宮水」などの名水は腐りにくいので、米十石に対して水十石の「十水(とみず)仕込み」ができるといいます。


ほかにも、「生一本」(単一の製造場のみで醸造した純米酒、たぶん「『桶買い』(外の蔵から酒を買い入れてブレンドなどをすること)はしてないよ」ということをあらわしているのだと思う)、「斗瓶取り(囲い)」(上槽時、酒を斗瓶(18L瓶)に分け、酒質のよいものを選別したもの)などのサブタイトルがみられます。

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日本酒-8 / 7.火入れ ・ 8.貯蔵・熟成

7.火入れ - 生酒(なまざけ)、古酒、樽酒 -

”火落(ひおち)菌”という日本酒が好物の細菌を除いたり、酵母の活動を収めて酒質を安定させるために、”火入れ”という作業をします。
火落菌が繁殖すると酸味が増したり、異臭を発したりして商品価値がなくなるので重要な工程とされています。

火落菌は60℃で死滅するので、ふつうはパイプによる間接加温で低温殺菌します。
「生酒」は、火入れをしていないもの、「生貯蔵酒」は、火入れせずに生で貯蔵し、出荷時に火入れしたものです。
(じっさいはもっと複雑 → 後記)

火入れしていない「新酒」や「生酒」は酵母が生きていることもあるので、変質しないうちに早めに飲むものとされています。
「生酒」系で保存が悪く酵母が活躍してしまった場合、”生老ね香”(なまひねか)という特有の異臭がでて嫌われます。

なお、以前は火落菌対策として人体に有害の疑いがあるサリチル酸がつかわれたこともあるそうですが、昭和44年以降は自粛、48年に酒税法により使用を禁じられ今に至っています。

8.貯蔵・熟成
日本酒は貯蔵・熟成させることにより円熟味を増し”味乗り”するといわれます。
ワインではこの熟成が重視され、中国の醸造酒、”黄酒”(ホアンジゥ)では、長期熟成させた黄酒をとくに”老酒”(ラオジゥ)と呼び分けて珍重します。

ちなみに中華料理店でよく飲まれる『紹興酒』は、浙江省の”紹興”という銘醸地で醸されるブランド黄酒です。
華北では醸造酒を蒸留してつくる”白酒”(パイジゥ)という白い強烈なお酒が好まれ、華南では醸造酒の黄酒が好まれるようです。
中国では北が蒸留酒文化圏、南が醸造酒文化圏と色分けすることができるかもしれません。

蛇足ながら、日中国交回復の宴席で、周恩来首相と田中角栄首相が乾杯した折、”酒豪”といわれた角栄氏が、その度数のあまりの強さに一瞬顔をしかめたといわれる伝説の貴州産『茅台酒』(マオタイジゥ)は最高級の白酒です。

1年以上貯蔵・熟成された酒は、貯蔵年数を表示することができ、「古酒」として販売されることがあります。
貯蔵・熟成が数年間に及ぶものは「古々酒」「大古酒」「秘蔵酒」などのサブタイトルがつけられることがありますが、定義は統一されていないようです。
「古酒」系の酒は、高い芳香と濃淳な飲み口をもつので”熟酒”ともいわれます。

樽が貯蔵・熟成し、木の香をまとったものを「樽酒」といい、樽で仕込みをおこなう「樽仕込み」とは意味合いがちがいます。

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