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「日本語の学校」 コラム その2 鴨下 信一

2016年10月06日 00時30分17秒 | 朗読・発声
 「日本語の学校」 声に出して読む<言葉の豊かさ> 鴨下 信一 平凡社新書 2009年

 コラム その2 P-86

 舞台に出る――アガらないために(2)

 いよいよ、舞台への第一歩。
 これが危ない。あなたはどちらの足から出ますか。右足?それとも左足?そんなのどっちでもいいじゃないか、といってはいけない。
 決めてやってごらんなさい――すごく安心するはず。安心すれば、決してアガらない。
 もっともあなたがいま出を待っている場所(舞台の袖といいます)から、あなたの姿が観客に見えてくるところまでには、何歩かあるはず。それを計算に入れて、舞台下手(客席から見て左側)から出る時は(見えてくる瞬間に)左足から、逆の舞台上手から出る時は右足から出るようにすると、最高です。もう上級者です。
 何故それがいいか。実際に立って歩いてみるとわかる。こうすると<早く客席から顔が見えてくる>のです。下手(客席から左手)から出る時、左足が前に出れば、体が少し正面に回転するはずです。逆に右足から出れば、背中のほうから舞台に登場することになる。
 これで登場が堂々とする。背中から出ると何かコソコソ出てきたような感じを与えるのです。これは損ではないでしょうか。
 これもいっておこう。和服の女の人はもし条件が許せば上手から出たほうがいい。これは裾前がはだけないですむコツです。和服の打ち合わせはそうなっているはず。ミットモなく見えることを避けるのがアガらないコツ。
 出ることはこれで出られたが、止まれますか。舞台の決められた場所に止まれないで、チョコチョコと歩数を合わせるのは、ほんとうにミットモない。幕が開く前に練習しておくこと。まず決められた場所から、逆にスタンバイの場所に歩いてみて歩幅と歩数を計算して、それから練習を開始したほうがいい。プロはたいていそうしています。
 決められた場所に来ました。そこで一礼。マイクの真後ろに立ってお辞儀をしてオデコをぶつける人を何人も見ています。あなたはそんなことはありませんね。
 で、ここからが肝心です。慣れないと、なかなか舞台から客席を見られない。客席が見えた瞬間、アガる。
 防ぐ方法は、ただ一つ。自分で意図的に、自分の意思で見ること。つまり、いつ見るかをちゃんと決めておくことです。お辞儀の前か、後、どちらか。前なら、お辞儀をしている間に、後なら、次に身体が回転している間に(マイクや譜面台の場所へ行くために、横向きになるはず)、気持ちは落ち着くはずです。
 気持ちを落ち着かせる箇所を、テキストに何ヶ所かセッテイングしておくこと、これが大事です。それは、よく考えれば、何ヶ所もあるはずです。


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