民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

平安時代に、 橋本 治

2015年01月01日 00時04分57秒 | 古典
 「ハシモト式 古典入門」 橋本 治 1948年生まれ  ごま書房 1997年

 平安時代に、ラブレターは「生活必需品」だった P-77(文庫)

 「目と目が合った」だけで「処女を失った」という時代です。そんな時代に、男と女はどうやって”知り合い”になればいいんでしょうか?

 顔がわからなくたって、「そこに女がいる」と思えば、どうしても男は気になります。女の方だって、自分がじっとしている前をすてきな男が通りかかったら、やっぱり心が動きます。そんな時、「あなたに関心を持っている人間がここにいますよ」ということを、どうやって相手に伝えるのか?和歌というものは、そのことを伝えるための道具だったんです。

 顔は見せられないけど、声だけはかけられる。手紙だけは送れる。そういう時代には、和歌が重要なんです。和歌がなかったら、男と女は恋愛ができないんです。恋愛だけじゃありません。和歌がなかったら、男と女はあいさつもできません。男と女だけじゃなくて、男同士だって、和歌で「会話」をします。平安時代の和歌がほとんど「言葉」とか「感情」というものと同じだったということは、紀貫之のかいた『古今和歌集』の序文からでもおわかりになるでしょう。「和歌というものは、人の心の中にある感情を核として生まれた言葉によってできている」「人間は、なにかを見たり聞いたりするにつけて、自分の感情を形にした和歌を詠む」です。