民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「 瞽女の荷物」 斎藤 真一

2015年01月17日 00時12分17秒 | 伝統文化
 「瞽女(ごぜ) 盲目の旅芸人」    日本放送出版協会 1972年(昭和47年)


 「 瞽女の荷物」 P-143

  瞽女さんの荷物であるが、それは遠出の旅ほど多かった。
信州など一ヶ月以上の長旅には、まるで引越し荷物のそれを連想させるほどの膨大なものであった。
布団包みぐらいの無地の丈夫な大風呂敷の中に、日常雑貨のいっさいが上手に包みこまれ、
縦縞の柄の木綿でできた二尺ぐらいの幅広い連尺(れんじゃく)という紐で肩に背負っていた。
四貫目もの荷を背負うと、紐が肩に食い込み、初旅の若い娘だと重さのため腰がふらつき、
休憩の後など、なかなか立ち上がれなかったという。
荷物はそれぞれの娘によって多少異なるが、大体はつぎのようなものであった。

 ・夜座敷でうたう時の晴れ着一揃い(この中には帯の締め替えが一本入っている)
 ・湯上り二枚
 ・腰巻三枚・長襦袢一枚
 ・寝巻き・単衣(ひとえ)一枚
 ・袢(はん)ちゃ 着替え一枚(袢ちゃは、旅の道中に着ている袂の短い羽織である)
 ・髪箱(この中には、水油・鬢付け油、堅口とやわらか口の二種、黄楊(つげ)の梳(すす)き櫛、ふけ取り櫛、などが入れてあり相当重い箱になっている。またこの髪箱は黒い油紙にくるまってあり、形もおもしろい)
 ・塵紙一しめ、石鹸、手拭、歯磨き(新聞紙は髪付け油を使うときに多量に必要である)
 ・薬箱の中には、毒消し、須川の百草園(胃腸の薬)傷(きず)薬として(ムヒ、ヨードチンキ、
キンカン、包帯、その他頭痛トンプク類)
 ・桐油(とうゆ)合羽(トイと言う。これは 桐油の種子を圧搾して得た油を日本紙に塗った合羽である。少し重いが完全防水になる)
 ・弁当箱(昔は楕円形の、外は朱漆で塗り上げた木製のメンツというものだったが、やがて行李弁当に変わった)
 
 瞽女さんとすれば、これらの荷物は、やはり軽くて少ない方がいいに違いないが、
途中で不自由するより、重くてもさしていとわなかった。
旅に出ると、何としても先立つものはお金であり、できるかぎり、
旅先で塵紙や石鹸など小さな物でも買わない習慣がついていたし、
いつも人里離れた裏街道の山野を歩くので、いつ、どこで、何が必要かを、
はっきり意識して生活していた。(略)

 そしてこれらの大荷物のうえに、今ひとつ合切(がっさい)というものがのっけられた。
合切は、一切合切という語源でもある。
縞柄の筒のような袋であって、中に弁当やお菓子箱類、旅の途中でたえず出し入れする日用品、
紙とか石鹸、薬などが入っており、両端を細ひもでしめるように作られている。
さしずめ今のリュックサックの外ポケットの役目を果たしている。
その外に三味線を持っていた。
(略)三味線は瞽女の命であり大切にされていたので、
桐油袋といって合羽と同じ防水になったものに入れられ、
途中でにわか雨にあっても心配のないようにされていた。