アフガン・イラク・北朝鮮と日本

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青蔵鉄道の光と影

2007年01月04日 22時55分21秒 | 北朝鮮・中国人権問題
 私はこの正月は仕事でテレビも殆ど見ませんでしたが、唯一の例外が1月2日夜9時からNHK総合テレビで放送された特集番組「青海チベット鉄道~世界の屋根2000キロをゆく~」です。この番組は鉄道マニアの端くれとしてじっくり堪能させてもらいました。 
 中国の省・自治区の中でチベットだけは未だ鉄道が開通していなかったのですが、それが昨年の夏に開通して旅客営業を開始した(形式上は未だ試運転期間らしいが)という事で、NHKが取材してきました。番組では、鉄道建設の苦労や、高地鉄道特有の様々な工夫、沿線の自然・風土、乗客の素顔などを映し出していました。

 車内ゴミの完全回収システムなどの環境対策や、酸素吸入器が車内に備え付けられ高山病対策が施されている事など、個々の点については私があれこれ書くよりも記事末尾添付の参考資料の方が詳しいので、そちらを参照して下さい。ただ、次の点だけはその参考資料にも記述が見当たらなかったので、ここで補足しておきます。
 鉄道建設に際してはチベット高原の永久凍土対策に悩まされたそうです。永久凍土の上に直に線路を引いたのでは熱で地盤が緩んでしまいますので、その対策として、特殊な措置を施した冷気通風用の配管パイプが線路に沿って何本も並んでいました。また、トンネル工事の際にも冷気をトンネル内に送り込んで地盤の緩みを防いだそうです。

 今までは南米のアンデス山脈を横切るペルー中央鉄道のティクリオ峠(海抜4781m)が世界最高所の鉄道通過地点でしたが、今回の青海チベット鉄道(青蔵鉄道とも言う)の全通で、その記録はチベット高原のタングラ峠(同5072m)に塗り替えられました。そういう事もあって、この鉄道には世界各地から観光客も大勢押しかけていました。番組ではイタリアや台湾からの観光客の姿が、出稼ぎから帰郷中のチベット人家族と併せて映し出されていました。そして、車窓から見るココシリ自然保護区の野生動物の姿や、崑崙山脈、黄河・長江源流地帯、ニェンチェンタングラ山系の雄姿を堪能させてもらいました。

 この青蔵鉄道については、中国のチベット弾圧政策に引き寄せて、鉄道開通をことさら揶揄する<だけ>のサイトも散見されます(2chなどはその筆頭)。こういう見方に対しては、鉄道ファンの端くれとしては少し抵抗を感じます。鉄道開通によって中国のチベット侵略が助長されるという指摘自体は決して間違ってはいないと思いますが、それを言い出せば米国・豪州の大陸横断鉄道やロシアのシベリア・バム鉄道、日本の北海道や第三世界の旧植民地の鉄道などもみんなそうです。

 朝鮮半島の鉄道なども元々は日本が日清戦争の兵員輸送の為に敷設したものですし、アフリカ・エリトリアの鉄道などはエチオピア侵略の為にイタリアが敷設したものです。ペルーのインカ世界遺産・マチュピチュに行くのに乗る観光鉄道も、元々はキヤバンバ地方のコーヒーをモノカルチャー輸出する為に外国資本が敷いたものです。それを抜きにして青蔵鉄道の場合<だけ>をことさら貶めるのは、フェアじゃないと私は思います。

 ただNHKもNHKです。如何にお正月番組の旅行記だとは言え、流石にあの内容では「中国政府のプロパガンダだ」と言われても仕方がありません。いくら中国政府の協力・協賛によって作られた番組であったとしても、チベット動乱の歴史に直接触れるのは無理としても、取材・編集の仕方によってはもう少し陰の部分も取り上げる事が出来たのではと思います。

 そう思って番組の場面を思い返すと、また別の側面も垣間見えてきます。例えば、列車には豪華な食堂車が併設されていて、ビジネスマンや外国人観光客などはそこで中国料理を堪能していましたが、チベット人の帰郷客などは車内販売の弁当やカップ麺やパンで食事を済ませていました。車内販売の弁当はご飯に野菜炒めと目玉焼きの副菜がついて、別にチキンを焼いたやつなども売っていて、これはこれで結構美味しそうでしたが、やはり食堂車のメニューと比べるとかなり見劣りがします。

 また観光客や帰省客に混じって、ラサにメノウやヒスイの行商に行くチベット人の若者の姿や、外の景色には眼もくれずにコンパートメントで商談に耽っている中国人ビジネスマンの姿を映し出していましたが、前者の若者は如何にも山師風の雰囲気を漂わせていましたし、後者の中国人ビジネスマンに至っては「大量仕入れでチベットで安くモノが売れる」という意味の事を言っていました。そのダンピングによってチベットの域内産業や現地住民の暮らしがどうなるかという事には全然無頓着というか、もうむき出しのグローバリズムというか、かつて中国を侵略した帝国主義者も斯くやと思わせるような事を。

 そして番組では、今回開通した青海省・ゴルムドとチベット・ラサの間の鉄道にほぼ並行して走っている国道(青蔵公路)を、乗用車やトラックが疾走する横で五体投地を繰り返しながら数ヶ月かけて巡礼の旅を続けているチベット人たちの姿も映し出していました。その中で、チベット人たちが五体投地を繰り返すのを尻目に見ながら列車が横の線路を駆け抜けていき、それを見た巡礼者がNHKのインタビューに対して「何か変な気持ちだ」と答えている場面がありました。多分この巡礼者の心の中に去来したのは、「ラサまで鉄道に乗れば一足飛びに行けるのに、俺は一体何をやっているのだろう」という言い知れぬ虚無感だったろうと思います。巡礼者を、人の心をそんな荒廃した惨めな気持ちにさせる開発って、一体何なんだろうか。そういう意味でも、いろいろ考えさせられた番組でした。

・青海チベット鉄道~世界の屋根2000キロをゆく~(NHK年末年始特集番組)
 http://www.nhk.or.jp/winter/gtv/gtv_61.html
・青海チベット鉄道(中国登山・トレッキング相談所)
 http://www1.vecceed.ne.jp/~watagi/page013.html
・チベット鉄道紀行(同上)
 http://www1.vecceed.ne.jp/~watagi/page015.html
・チベットではこんなことが起きている(超入門チベット問題)
 http://www.tibet.to/mondai/mondai2.htm
・現在のチベットの状況(ダライ・ラマ法王日本代表部事務所)
 http://www.tibethouse.jp/situation/index.html#12
・映画「ココシリ」公式サイト
 http://www.sonypictures.jp/movies/mountainpatrol/site/top.html
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【お知らせ】「チャンネル桜」の件・追記 (まこと)
2007-01-05 08:54:58
先日ご紹介した「チャンネル桜」の中国の人権弾圧特番についてですが、同特番の中でも放送されていた「世界ウイグル会議秘書長-ドルクン・エイサ氏」へのインタビュー番組については「チャンネル桜」のWebから無料視聴できます。

インタビュアーは「『反日』解剖」(文藝春秋)などの著者でもある水谷尚子・中央大学非常勤講師です。「新疆ウイグル自治区」(東トルキスタン)における凄惨な拷問、弾圧の実態の一端を知ることができます。

・<報道ワイド日本「世界ウイグル会議秘書長 ドルクン・エイサ氏に聞く」>オンライン配信
http://www.ch-sakura.jp/streamfiles/streaming.html?id=206

#なお、私はまだ先日の特番は視ていません(汗)。3~4日はスキー小旅行に小旅行に出掛けていましたので・・・。今日、録画で視るつもりです。
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新年おめでとうございます。 (大西共産党)
2007-01-09 10:20:15
当方をご記憶かどうかは存じませんが、例年はいろいろな意味でお世話になりました。

件の番組、私も一部ですが再放送で見ました。

ただ、なぜ日本で中国によるチベット支配が斯くも非難されるかといえば、それが「かつて日本が満州などでやってきたこと」と同じだからであり、ある意味日本人が「歴史的教訓」から学んでいる証ではないでしょうか。
それがなんだか社会主義者氏は「ネットウヨ共は満州の歴史も知らずに(あるいは目をそらして)中国こき下ろしを楽しんでいる」と言っているように見えるのは私の読解力不足でしょうか。

朝鮮学校見学会で「本場のやらせ」を生で見て、校長先生や学生運動家ののらりくらりした応対を経験したりすると、ネットやテレビでの百万言が空しく感じられ、どうしても斜に構えた穿った物の見方しかできなくなってしまいます。
たとえば「五体投地」なども、お経を書いた円筒を回して読経したことにするような横着な民がはたしてそんな事するか? 米国のインディアン・ショーやエスキモーのアザラシの内臓食いパフォーマンスのような「観光用」ではないのか? 客車の各扉に職員が配置され「熱烈歓迎」するのは検問なのか、あるいは本当に善意で歓迎しているのが誤解されているのか? などなど…

NHK特集というとどうしても「ムスタン」の件や、平壌レポートの名セリフ「祖国の美観のために女性も美しくなければなりません」を連想してしまいますが、正月くらい肩の荷を下ろし「素直な見方」でエンターテイメントとして旅気分に浸るのも「鋭敏な感性」を養うには必要なのかもしれませんね。
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