
長谷川康夫さんの「つかこうへい正伝1968-1982」を読みました。文庫で800ページある大作です。最近、こんな分厚い本を読んでいないので、本屋さんで手に取ったものの、一瞬怯みましたが、なぜか「読まなあかんわ」と思い、お買い上げです。
内容紹介です。
70年代から80年代初めにかけて、『熱海殺人事件』『蒲田行進曲』など数々の名作を生み出した天才演出家つかこうへい。だが、その真の姿が伝えられたことはなかった――。つかの黄金期に行動を共にした著者が、風間杜夫ら俳優、および関係者を徹底取材。怒濤の台詞が響き渡る“口立て”稽古、当時の若者の心をわしづかみにした伝説の舞台、つかの実像を鮮やかに描き出す唯一無二の評伝!
著者の長谷川康夫さんは早稲田大学の劇団「暫」に入団後、つかこうへいと出会い、その後「いつも心に太陽を」「広島に原爆を落とす日」「初級革命講座飛龍伝」「蒲田行進曲」など一連のつか作品に出演。1982年の「劇団つかこうへい事務所」解散までご一緒されていた方です。解散後は劇作家、演出家として活躍されています。ワタシの知らない人やねぇと思っていたら、グループる・ばるのお芝居をいくつか作・演出されているので、ひょっとしたら見ているかもしれません。
表紙の「つかこうへい正伝」だけ見て、てっきり生まれてからお亡くなりになるまでの伝記だと思っていたら、その後ろに「1968-1982」とあって、この年代って「つかこうへいが最もつかこうへいらしかった時代」だそうです。1982年は「蒲田行進曲」で直木賞を受賞、劇団つかこうへい事務所を人気の絶頂で解散しています。
ワタシ、その時代は全く知らないんですよね。何度か書いておりますが、高校時代は演劇部でしたが、生の舞台といえば、文学座を数回見た程度、大学に入ってはじめて「つかこうへい」という名前を知りました。それも、つかこうへい事務所ではなく、そとばこまちの「熱海殺人事件」が初・つかこうへいでした。79年大学入学なので、劇団つかこうへい事務所を見る機会はたぶんあったと思うのですが、今ほど熱心にアンテナを張ってたわけでもなく、全盛期の“つかこうへい”は経験してないんですよね。
というわけで、この本を読んでも、「つかさんと同時代を生きてきて、そのころに思いを馳せて『遠い目』になる」ってことはなかったです。淡々とつかさんの足跡を辿ったような感じです。著者の長谷川さんはつかさんのそばにずっといらっしゃった方で、良い面も悪い面も全て書いていらっしゃいます。決して美化はしていないです。むしろ、恥部をさらけ出しているような、つかさんのつかさんらしい人間性を炙り出しています。結構計算高い人だし、とてつもないこと、ありえないことを言ってるし、ヤな感じ満載でした。もちろん、それに対するフォローもあって、長谷川さん、本当に敬愛されているのだと思います。
お芝居についてもはっきりと「これは失敗」って書いているのもありました。ただでは起きずに、その失敗作?をもとに、違うまた別のお芝居になっていました。ただ、ワタシはまともにわかるのは「熱海殺人事件」ぐらいで、それ以外のお芝居はタイトルを見ても思い浮かべられるものがなくて…。若干、ついていけなかったです。
800ページともなると、なかなか道のり長くて、特に最初のほうは学生演劇の話で、いろいろ名前が出てくるのですが、全く???で、劇団つかこうへ事務所になって、平田満、三浦洋一、根岸季衣、風間杜夫あたりが登場するころになると、劇団の人気も最高潮、その劇場や観客の熱狂ぶりがすごくて、そのあたりからあとは一気に読めました。そういう“熱”にちょっといっしょに浮かされてみたかったと思いました。
劇団つかこうへい事務所を解散後のつかこうへいのお芝居はいくつか見ています。もっぱら「熱海殺人事件」のバージョン違いでしたが。ひとつだけ、岸田今日子を主役にした「今日子」がありました。後で聞くところによると、岸田今日子が上手すぎてつかこうへいは不満で、再演しなかったとか…。そういえば、文学座がアトリエ50周年で「熱海殺人事件」をかける予定でしたが、新型コロナウイルスで中止になりました。再開されたら、ぜひ見に行きたいと思います。まだまだつかこうへいは健在です。