おとらのブログ

観たもの、見たもの、読んだもの、食べたものについて、ウダウダ、ツラツラ、ヘラヘラ書き綴っています。

美術展の不都合な真実

2020-07-13 22:38:38 | 読んだもの
 
 ↑この本、結構あちこちで評判になっているので、ご存じの方も多いかと思いますが。

 内容説明です。
 
フェルメール、ゴッホ、モネ――屈指の名画が来日するのは、有数の芸術愛好国だから? 否、マスコミが主導し、大宣伝のなか開幕する「美術展ビジネス」が大金を生むからだ。「『〇〇美術館展』にたいした作品は来ない」「混雑ぶりは世界トップレベル」「チケット代の利益構造」「“頂点”に立つ国立美術館・博物館」等、新聞社の事業部で美術展を企画した著者が裏事情を解説。本当に観るべき展示を見極める目を養う必読ガイド。

 「美術館ビジネス」なるものについては、展覧会に行く方なら、薄々?何となく?確信をもって?気づいていらっしゃったと思います。新聞社でもテレビ局でも、自社が主催する展覧会の宣伝は本当にすごいものがありますから。これ、最初に感じたのは、奈良博の「正倉院展」です。いつの間にか主催に読売新聞がドドーンと入り、展覧会は秋なのに、年が明けると春先ぐらいから「今年の『正倉院展』の見どころ」みたいな記事(という名の宣伝)が始まります。それ以降も、ずっと途切れることなく、節目節目で「正倉院展」を宣伝、秋の開催となります。そりゃ、これだけ宣伝すれば(また行きたくなるような記事なんです)、人も集まるだろうと思います。

 NHKもすごいですよね。NHK主催の展覧会のCM(と言います)を、「これでもかっ」ってくらい番組と番組の間に押し込んできます。自分が行きたい展覧会だと「そんなに言わんといて、人が殺到するから」と画面に向かって叫びそうになります。

 この本では、朝日新聞社で美術展を企画されてきた著者の古賀さんが、「え、こんなことまで言っていいんですか」ってくらい最近の美術展事情について詳細を書いてくださっています。とても興味深く読みました。

 美術展に大々的にマスコミがからむようになったのは1994年の国立西洋美術館での「バーンズコレクション」展が分岐点になっているそうです。ワタシ、これ見に行きました。このために上京しました。門外不出のコレクションなので絶対見ておくべき!と美術に詳しい友人に教えてもらい、上野まで行きました。でも、すごい人で、展示室の中はまるで満員電車のよう、人の頭の先にチラッと見えるだけでした。それしか覚えていません。何の絵を見たのかはわかりません。そもそも絵に近づけないので、キャプションが見えないんですよね。美術館を出て、上野のアメ横で化粧品を買って帰ったのだけは覚えています。

 この展覧会が、読売新聞だったそうです。朝日新聞にも声がかかったけれど、あまりの借用料の高さに恐れおののいてお断りされたそうです。借用料5億円だったそうですが、それだけ人が入ったので、読売は収益を上げられたそうです。

 この本、こういった内幕の暴露だけでなく、美術館・博物館の成り立ちや展覧会の企画運営についても詳しく解説してあって、単なる“のぞき見”的な本ではありません。真面目な本です。いちいち書き出すと止まらないのですが、これまでいろいろとモヤモヤしていたことがよくわかりました。国立の美術館・博物館でも、国の改革で独立採算制?自分で儲けろみたいになっているので、キャッチーな企画をしないといけない、そうなるとマスコミの力を借りないといけない、学芸員さんがその間に入って“雑芸員”になってるというのはお気の毒というか、研究者なんですから…。日本の文化政策の欠けている点が如実に表れていますよね。まあ、これって文化だけでなく、昨今の医療をめぐる問題だってそうですから。非常に面白くてためになる本でした。です。

 
 ついでにこの本も。古賀さんがフェルメール展のところで紹介されていた本です。タイトルだけ見るとフェルメールの作品とか人物とかについて書かれたもののようですが、全然違います。「フェルメール・シンジケート」なるものについて書いてありました。著者の秦新二さんもフェルメール・シンジケートの一員だそうで、日本で開催される「フェルメール展」の出展交渉を(たぶん)一手に引き受けていらっしゃるようです。フェルメールの作品がどうやって各国の展覧会へ貸し出されるのか、よくわかります。一応、フェルメールの全作品がカラーで紹介され、それについても解説がついています。ただ、純粋にフェルメールという人物や絵について知りたい人にはNGかもしれません。ワタシは“下世話”なほうが好きなので、いろいろなやり取りの部分がおもしろかったです。この美術展のシンジケート、印象派ならフランスのオルセー美術館、ゴッホならオランダのゴッホ美術館とクレーラーミュラー美術館がガッチリ握っているそうです。

 これから展覧会に行くときに、違った?お楽しみができました。いろいろな思いを巡らせながら絵を鑑賞します。
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4 コメント

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美術館の混雑 (まるこ)
2020-07-14 09:28:49
もう30年以上も前ですが、奈良のシルクロード博に親子4人で行きました。国立博物館の中はすごい人で、「立ち止まらないでください。」とい案内で、横目で見えたか見えないかという感覚でした。それって鑑賞じゃないですよね。
学生時代に数回通った日本民藝館は、いつもゆっくりと見ることができ、豊かで楽しい時間を過ごしてきました。
美術館は、こういうところであって欲しいです。



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タイアップ (おとら)
2020-07-14 22:20:13
マスコミとタイアップすると、全部マスコミの方でおぜん立てしてくれて、常設展の入場料のお金だけ美術館・博物館のほうへチャリンチャリンと落ちるそうです。すごい仕組みですよね。

京博でも国立近代でも、それほどメジャーではないものは、ゆっくりと見ることができます。できるだけ、そういうのを狙って見に行ってます。
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Unknown (昔の関係者)
2020-08-08 13:09:41
残念ながら一部に著者の誤解もあります。
共催展の館への料金配分は常設展分ではありません。共催者との協議により設定された館への配分額です。「常設展もご覧いただけます」というのは、常設展分を無料扱いにしているので見られるということです。この点は出版社へは指摘済みです。

また、美術館・博物館側も全く何もしないわけではありません。共催展の役割分担では、ほとんどの過程において博物館と共催者が様々な形で協力しており、館が主要な役割を果たす項目も多くあります。
(関与する事項例)
企画・事前調査、図録の原稿執筆・監修・その他解説等、出品交渉・集荷・陳列・その他準備作業、撤収・返却、展覧会管理運営、観覧券作成・観覧料徴収・配分、広報、関連事業実施、その他必要な業務

もちろん、美術館・博物館や展覧会によってその関与の程度は異なります。
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ご指摘有難うございます (おとら)
2020-08-08 14:39:59
貴重なご指摘有難うございます。こちらも本に書いてあるとついそのまま信用してしまい、申し訳ありません。

美術館・博物館の方たちがこういう“パッケージ”に乗っかって楽してるとは思っておりません。丸ごと受け入れるわけではなく、要所要所でお仕事されていると認識しております。

反対に“パッケージ”ではない、世間的にはお地味と思われるような展覧会が、それぞれの個性が感じられて好きなんですが、お客さんが少ないと「せっかく面白い展覧会なのにもったいない」と思うこともあります。
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