いつも往診にはハープを持っていくのだが今日は患者さんのため以外に持参した初めての機会だったかもしれない。
神奈川県K区の駅から歩いて10分ほどの高台のマンションにWさんは住んでいて、今日は往診2回目だった。実は前回帰りがけにそのマンションから見ると裏手にある階段を降りて駅に向かう途中で寒気に襲われた。往きにそこに小さな赤い社があることは見かけていたのだけれども、どうもあまりいい感じがしなかった。
患者さんのマンションはちょうどお不動さまの裏手の山を全部開発した形で建っているようだった。たぶんそのあたりはお不動さんの神域だったと思う。だって結構な樹齢と思われる木が何本も残っているから。そこを開墾してしまったようなのだ。
八甲田神社の創立者であり宮司であった小笠原壽久氏の『神考記』や『見知らぬ世界』(いずれも八甲田神社発行)を縁あって読むことができ、そこから昔の社や塚、池、井戸などを無造作に開墾したり埋めたりすることでいかに様々な災厄が近隣の人々に降り懸かるかを学んでいたから、どうもWさんの病気も関連するのでは、という考えは頭の中にあった。
なので土地の神さまを軽んじて挨拶なしでその上の神域と思しきところに建ててしまったマンションに住む患者さんを治療に行っても、うまくいかないんじゃないかと考え、今日はお不動さまに挨拶もするためにハープを往診に持参した。
車道の脇にいきなり不動尊と書かれた鳥居が立っていてそこからお不動さまの参道と思しき舗装された小道が続いている。そこからお不動さまの背後の山に立っているマンションが見える。そしてさらに今日気付いたのだがちょうど祠のあるあたりの上を高圧架線まで架かっている。これはまずいだろう、ご立腹されてもしょうがないのではないか・・・。
参道の入り口で史跡調査をしているような風体の方がいたので彼に奇異に思われるかもしれないなぁとも考えたが今日の目的はお不動さまにご挨拶してご機嫌を直して頂いて患者さんの治療の許しを得ることだからしかたがない、彼の真横で帽子を脱いで参道の奥のお不動さんに向かって合掌と礼をした。「知らぬこととはいえあなた様の大事な地に人の住居を立ててしまったことについてお詫び申し上げます。今日はその地に住む人を治療させていただきたく存じます。これから微力ながらお腹立ちを慰撫させて頂きたく楽の音を奏上したいと存じます。どうぞお許し下さい」と。
治療約束の時間に遅れそうなのでそう祈ってから急いで参道に入っていくと後からその初老の人が「あの・・・お急ぎの所を引き止めてすみませんが、あなた今挨拶されていましたよね、でもお不動さんはそこにはないのですが・・・」とのたまう。
うーん、確かに物としてのお不動さまはないかもしれないけれどぼくにはあきらかになにものかがおわす感じがするので、「いや、たぶんいらっしゃいますよ」と言って彼を無視してそのまま奥へ急ぎ足で向かった。何しろ患者さん宅へ行く前にハープの楽の音を奏上しないといけないから時間的余裕がない。
すると彼はぼくの後を追ってきてぼくが奥のちいさい祠にお賽銭を差し上げて祈っているのを後で見届けていてこれからハープを弾こうとする時に声を掛けてくる。流れを止められてしまうと困るので「ちょっと待って!」と制してからハープを弾く。
しばらくして無事弾き終ってから彼の方に振り向き先ほどの制止の無礼を詫びてからやむを得ず少し説明する。ぼくが治療師であり患者さんの治療の前に土地の神様に許しを得るために楽の音を奏上したことを。するとようやく納得したようで去っていった。その後急いでWさん宅へ向かった。
Wさんの治療の際には娘さんが同席していた。きょうは足のむくみを取るオイルマッサージを見て覚えて頂く予定だった。治療に入る前に場を清める方がいい感じがしたのでハープを弾くことにする。「場を清めますから」とぼくが言うと娘さんが「やっぱりここは場が悪いんですか?」と聞いてくる。言うべきか言わぬべきか・・・2~3秒迷ったが意を決して「えぇ、もしかしたらそうかもしれないです」
と言うと「実は前にも占い師の方からここはそういうところだから気をつけた方がいいと言われたことがあります」と。
実はWさんのうちは今年になってからひどい運続きで、まずWさん本人の症状が急に進展してしまったこと、長女の摂食障害、うつ病の発症、そして極め付けが先月、まだ20歳代の三女を急性くも膜下出血で突然亡くすという不運にも見舞われてしまったのだ。そしてここへ越してきたのが3年前とのことだった。
それを知っていたのでお不動さまに関わる存在たとえば眷属などによる災いがあるのではないかと考えたのだった。さらに驚いたことについ先ほどぼくがハープを弾く際に腰掛けていた祠横にある建物の土台と思しきコンクリブロックは、最近不審火で消失したお堂の跡だったという・・・。社を焼失してしまったのでお不動さんは移築されたのか。それで往きに袖擦り合った男性の「そこにお不動さんはないですよ」という話が繋がっていく。
しかし神域は開発され、祠は省みられず、社は焼失ではそこにおわす方はお怒りになるのもごもっとも、という状態ではないだろうか?もちろんぼくには霊感がないからもしかしたら神様は引越しされてまったくそこにはいらっしゃらず怒ってもいないかもしれない。でも流れからするとここは詫びの一つも入れるべきところだと思ったのだ。
幸いWさんの次女の娘さんはこういう話を理解してくれて帰りにはぼくの見落としていた祠脇にあるこれも裡捨てられているお地蔵様のような像とその下から湧き出している竜神を象った吐水口までわざわざ案内してくれた。そこで再度ハープを奏上した。併せて彼女に清酒を買ってきて竜神様に奉げると良いと思うと伝えておいた。
もしかしたら霊能力者の人からみたらまったくとんちんかんなことをしているかもしれない。しかしそれでも自分の中ではこれまで霊的に学んできたこと、知りえた事から類推して取れるべき対策、すべきことはしてけじめを通せたのではないかと思っており、多少は心が落ち着いて往診から帰ってきたのだった。
神奈川県K区の駅から歩いて10分ほどの高台のマンションにWさんは住んでいて、今日は往診2回目だった。実は前回帰りがけにそのマンションから見ると裏手にある階段を降りて駅に向かう途中で寒気に襲われた。往きにそこに小さな赤い社があることは見かけていたのだけれども、どうもあまりいい感じがしなかった。
患者さんのマンションはちょうどお不動さまの裏手の山を全部開発した形で建っているようだった。たぶんそのあたりはお不動さんの神域だったと思う。だって結構な樹齢と思われる木が何本も残っているから。そこを開墾してしまったようなのだ。
八甲田神社の創立者であり宮司であった小笠原壽久氏の『神考記』や『見知らぬ世界』(いずれも八甲田神社発行)を縁あって読むことができ、そこから昔の社や塚、池、井戸などを無造作に開墾したり埋めたりすることでいかに様々な災厄が近隣の人々に降り懸かるかを学んでいたから、どうもWさんの病気も関連するのでは、という考えは頭の中にあった。
なので土地の神さまを軽んじて挨拶なしでその上の神域と思しきところに建ててしまったマンションに住む患者さんを治療に行っても、うまくいかないんじゃないかと考え、今日はお不動さまに挨拶もするためにハープを往診に持参した。
車道の脇にいきなり不動尊と書かれた鳥居が立っていてそこからお不動さまの参道と思しき舗装された小道が続いている。そこからお不動さまの背後の山に立っているマンションが見える。そしてさらに今日気付いたのだがちょうど祠のあるあたりの上を高圧架線まで架かっている。これはまずいだろう、ご立腹されてもしょうがないのではないか・・・。
参道の入り口で史跡調査をしているような風体の方がいたので彼に奇異に思われるかもしれないなぁとも考えたが今日の目的はお不動さまにご挨拶してご機嫌を直して頂いて患者さんの治療の許しを得ることだからしかたがない、彼の真横で帽子を脱いで参道の奥のお不動さんに向かって合掌と礼をした。「知らぬこととはいえあなた様の大事な地に人の住居を立ててしまったことについてお詫び申し上げます。今日はその地に住む人を治療させていただきたく存じます。これから微力ながらお腹立ちを慰撫させて頂きたく楽の音を奏上したいと存じます。どうぞお許し下さい」と。
治療約束の時間に遅れそうなのでそう祈ってから急いで参道に入っていくと後からその初老の人が「あの・・・お急ぎの所を引き止めてすみませんが、あなた今挨拶されていましたよね、でもお不動さんはそこにはないのですが・・・」とのたまう。
うーん、確かに物としてのお不動さまはないかもしれないけれどぼくにはあきらかになにものかがおわす感じがするので、「いや、たぶんいらっしゃいますよ」と言って彼を無視してそのまま奥へ急ぎ足で向かった。何しろ患者さん宅へ行く前にハープの楽の音を奏上しないといけないから時間的余裕がない。
すると彼はぼくの後を追ってきてぼくが奥のちいさい祠にお賽銭を差し上げて祈っているのを後で見届けていてこれからハープを弾こうとする時に声を掛けてくる。流れを止められてしまうと困るので「ちょっと待って!」と制してからハープを弾く。
しばらくして無事弾き終ってから彼の方に振り向き先ほどの制止の無礼を詫びてからやむを得ず少し説明する。ぼくが治療師であり患者さんの治療の前に土地の神様に許しを得るために楽の音を奏上したことを。するとようやく納得したようで去っていった。その後急いでWさん宅へ向かった。
Wさんの治療の際には娘さんが同席していた。きょうは足のむくみを取るオイルマッサージを見て覚えて頂く予定だった。治療に入る前に場を清める方がいい感じがしたのでハープを弾くことにする。「場を清めますから」とぼくが言うと娘さんが「やっぱりここは場が悪いんですか?」と聞いてくる。言うべきか言わぬべきか・・・2~3秒迷ったが意を決して「えぇ、もしかしたらそうかもしれないです」
と言うと「実は前にも占い師の方からここはそういうところだから気をつけた方がいいと言われたことがあります」と。
実はWさんのうちは今年になってからひどい運続きで、まずWさん本人の症状が急に進展してしまったこと、長女の摂食障害、うつ病の発症、そして極め付けが先月、まだ20歳代の三女を急性くも膜下出血で突然亡くすという不運にも見舞われてしまったのだ。そしてここへ越してきたのが3年前とのことだった。
それを知っていたのでお不動さまに関わる存在たとえば眷属などによる災いがあるのではないかと考えたのだった。さらに驚いたことについ先ほどぼくがハープを弾く際に腰掛けていた祠横にある建物の土台と思しきコンクリブロックは、最近不審火で消失したお堂の跡だったという・・・。社を焼失してしまったのでお不動さんは移築されたのか。それで往きに袖擦り合った男性の「そこにお不動さんはないですよ」という話が繋がっていく。
しかし神域は開発され、祠は省みられず、社は焼失ではそこにおわす方はお怒りになるのもごもっとも、という状態ではないだろうか?もちろんぼくには霊感がないからもしかしたら神様は引越しされてまったくそこにはいらっしゃらず怒ってもいないかもしれない。でも流れからするとここは詫びの一つも入れるべきところだと思ったのだ。
幸いWさんの次女の娘さんはこういう話を理解してくれて帰りにはぼくの見落としていた祠脇にあるこれも裡捨てられているお地蔵様のような像とその下から湧き出している竜神を象った吐水口までわざわざ案内してくれた。そこで再度ハープを奏上した。併せて彼女に清酒を買ってきて竜神様に奉げると良いと思うと伝えておいた。
もしかしたら霊能力者の人からみたらまったくとんちんかんなことをしているかもしれない。しかしそれでも自分の中ではこれまで霊的に学んできたこと、知りえた事から類推して取れるべき対策、すべきことはしてけじめを通せたのではないかと思っており、多少は心が落ち着いて往診から帰ってきたのだった。