goo

激突!


監督 スティーブン・スピルバーグ
出演 デニス・ウィーバー

 普通のセダンに乗った、普通のおっさんが、巨大なタンクローリーに執拗に追いかけられる映画である。
車の追い越しは居合いと同じである。下手な居合い斬りで斬られると痛い苦しい。達人に斬られると、斬られたことすら感じないそうだ。わたしゃ斬られたことがないから判らないが。
 下手なドライバーに追い越されるとカチンとくるが、うまいドライバーに追い越されると、アッと思うだけで腹は立たない。わたしも運転暦が長いから、いろんな経験をしている。この映画と似た経験もある。大型トラックにケツにつかれてあおられた。追い越されるのもしゃくだ。ケツにくっつかれるのもうっとうしい。こんな時はこうする。アクセルとブレーキを同時に踏む。右足でアクセルを踏んで加速しつつ、左足でチョンチョンとブレーキペダルをつついてやる。ブレーキを効かせてはダメ、チョンチョンとするだけ。後ろの車は目前の車のブレーキランプが点灯するわけ。ハッとして本能的にブレーキをかける。こっちは加速、相手は減速。あっという間にひきはなせられる。
 この主人公のおっさんは運転が下手な上に、乗ってる車は性能が悪いと見える。セダンとタンクローリーが競走すれば、普通に考えてセダンの方が速いと思うが。わたしが、かっての愛車ホンダ・インテグラに乗っておれば、こんなことにはならないだろう。
 さて、わたしの自慢話はさておいて、この映画だ。原作、脚本は職人才人のリチャード・マシスン。監督のスピルバーグはこれがデビュー作。スピルバーグはこのあたりから「ジョーズ」にかけてのころが一番才能が発揮されていたのではないか。SFとホラーのベテランのマシスンと若い才能のスピルバーグが手がけらからこそ、タンクローリーにセダンが追いかけられるという、なんということのない話を、こんな面白い映画にできるのだ。
 タンクローリーの運転手がどんな男(女かも知れん)か判らないのが良い。腕と足がチラッと見えるだけ。このことによって、タンクローリーという機械が感情を持っているように見える。
 最初はただの嫌がらせかと思うが、だんだんと異様な執拗さが際立ってくる。最後は完全に殺意を持って追いかけてくる。逃げれたと思っても、こつ然と現れるタンクローリー。超自然的な怪物に見えてくる。最初はカーアクションだと思ってみるが、だんだんとホラーになってくる。このあたりはさすがホラーの名手マシスンの脚本だ。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
« 丸天うどん 高倉健が亡く... »
 
コメント
 
 
 
ホラー映画 (まろ)
2014-11-17 21:31:46
スピルバーグがまだ無名の頃の作品ですね。
たかがカーチェイスの映画でここまで魅せる才能に
感服したものです。おっしゃるように「激突」から
「ジョーズ」にいたる初期の作品が、シンプルで
一番面白かったような気がしますね。
その陰にSF作家がいたとは知りませんでした。(笑)
言われてみればこれは「ホラー映画」ですね。
 
 
 
まろさん (雫石鉄也)
2014-11-17 21:58:13
確か、この映画のときはスピルバーグは25歳ぐらいだったのでしょうか。そんなに若く、これだけの映画をつくるとは、やっぱり才能ですね。
晩年は、いささか、演出が鼻につくような時がありますね。
リチャード・マシスンは小説と映画の両方で活躍した、才人でした。おしくも2013年に87歳で亡くなりました。
 
 
 
Unknown (堀 晃)
2014-11-17 23:06:31
筒井さんから、発表前に「走る取的」の内容を聞かされたことがあります。
その時に「激突!」との類似を指摘しました。
この時点で脱稿されていました。
しかも、ほとんど実話だということです。
この軒は、別冊新評の対談で明かされています。
どちらが怖いかというと(日本では)取的でしょうね。
阿佐ヶ谷の焼鳥屋とか亀戸の飲み屋にモデルとしか思えないのがおりましたからねえ。
 
 
 
堀晃さん (雫石鉄也)
2014-11-18 08:47:57
そうですね。この映画、あの筒井さんの「走る取的」と同じですね。
やっぱり、タンクローリーに追いかけられるより、相撲取りに追いかけられるほうがコワイですね。
マシスンと筒井さん、同じようなことを考えるものですね。
あの話がほとんど実話とは知りませんでした。
 
コメントを投稿する
 
現在、コメントを受け取らないよう設定されております。
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。