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紙の動物園


 
 ケン・リュウ  古沢嘉通訳     早川書房

 テッド・チャンに続いて、今、最も期待されている中国系アメリカ人作家の短編集である。日本オリジナル編集の短編集だ。奥付を見ると9版。ものすごく売れている。この文芸書が売れない現代で、こんな人口に膾炙しない、海外の新鋭SF作家の短編集がなぜこんなに売れるのか。たぶんアレだろう。某賞を受賞した某お笑い芸人がこの本を推薦した。この某芸人の本も良く売れているらしいが、それにつられてか本書もよく売れている。古ダヌキのSFもんとしてはSF本がよく売れるのはうれしいが、本の内容で売れてくれるのならいいが、かようなことで売れるのは少々複雑な気分だ。
 さて、その某芸人さんにつられて本書を買って、読もうかという方、読み始めは大満足するだろう。巻頭に載っているのが表題作の「紙の動物園」これはだれにでもわかる傑作だ。いわゆる「母もの」というカテゴリーに分類されるか。カタログで選ばれて「買われて」中国からアメリカへやってきた母。母はアメリカでぼくを生んだ。英語がしゃべれない母は、ぼくに紙で動物を折ってくれる。
 ところが他の作品は、正直、退屈であった。「紙の動物園」だけ読んで、あとの作品を読まずに済ませる人も多かろう。小生は全部読んだが。あと、日本人としては少々尻こそばゆい「もののあはれ」架空の難工事を描く「太平洋横断海底トンネル小史」子供のころ知り合った妖狐との交流を描いた「良い狩りを」などが良かった。
「紙の動物園」はSFマガジン2013年3月号「良い狩りを」は同誌2015年4月号に掲載されている。1900円も出して本書を買うより、SFマガジンのバックナンバーを買った方がお徳用と思うな。
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