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天冥の標Ⅱ 救世群

 
 小川一水  早川書房

 これは傑作だ。小松左京の「復活の日」以来の日本製パンデミック小説の傑作である。全10巻の2作目だが、本作だけでも単独の作品として楽しめるから、1巻目を未読の人でも安心して読める。それに、1巻目は遙か未来の遠い他の惑星の話だったが、本作は21世紀、現代の話だ。
 南太平洋はミクロネシアのパラオで未知の疫病発生。国立感染症研究所の医師児玉圭伍と矢来華奈子が調査におもむく。現地は死体の山だった。生存者は日本人少女檜沢千茅、カナダ人少年フェオドール、黒人青年ジョプたちわずか。
 恐るべき死亡率と強力な感染力を持つその疫病は冥王班と名付けられた。疫病は爆発的に世界に蔓延した。世界各地でアウトブレイクが発生。千人万人単位で死者が出た。東京でもアウトブレイクが起こり、とても通常の病院では処理しきれない。新宿御苑のような広大な場所に診察施設を造って、陽性陰性を診断する。長蛇の列で5時間6時間並ばなければ診察は受けられない。
 冥王斑は恐るべき疫病ではあるが致死率100%ではない。発病しても回復する者もいる。回復者は症状は出なくなってもウィルスは体内に保持したまま。だから、回復者は厳重に隔離される。彼らは「合宿所」に集められ集団生活をする。
 主要な登場人物は医師の児玉圭伍と矢来華奈子。回復者の檜沢千茅。特に千茅はこの物語の心棒ともいうべき人物。ほとんど危篤状態の女子高生だったが。回復し合宿所に入れられるが、だれに対しても優しく、若いながらもリーダーシップを発揮して、回復者たちのまとめ役になる。そして日本の回復者を代表して、日本冥王斑患者群連絡会議代表に就任。最終的には世界的な回復者たちのための政府が樹立され、彼女は初代の元首となる。本作は一人の少女の成長の物語でもある。
 冥王斑の正体は後半にあきらかにされる。この2巻目は全10巻の「天冥の標」なる物語の、いかなる位置に収まるのか。完結した時、どんな物語が読者の目の前に広がるのか楽しみである。
 
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