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仁義なき戦い


監督 深作欣二
出演 菅原文太、金子信雄、松方弘樹、梅宮辰夫、内田朝雄、田中邦衛

 高倉健の「昭和残侠伝」藤純子の「緋牡丹博徒」に代表される、勧善懲悪、様式美の任侠映画から脱し、「実録路線」のヤクザ映画の嚆矢となった映画。この映画に善玉、悪玉はいない。観客が感情移入しやすいように、主人公サイドの人間、それと敵対する人間に分類されているだけ。と、いうより、登場人物全員が悪役といっていいだろう。
 オープニングは終戦直後の広島の闇市。原爆という巨大な暴力にさらされたばかりの広島で、食い詰めた復員兵、街の女、ガラの悪い進駐軍など欲望むき出しの群集がうごめいている。
 進駐軍が女を集団で襲う。それを助けようとしてアメリカ兵に喧嘩をふっかける主人公。いきなり暴力シーン。この群集シーン、暴力シーンは手持ちカメラで撮影され、画面がグラグラ揺れる。異様な迫力。乗り物酔いに似た感じになる。
 主人公、広能昌三は呉の山守組に入る。その後山守組は、組長山守義雄の才覚、組員広能、坂井らの働きで、他の組との抗争を繰り広げながら、大きな組へと成長して行く。この映画、ストーリーを紹介してもあまり意味はない。あの組とこの組は敵対していて、その組とは友好関係。この組は、あの組の傘下ではあるが、この組の幹部は、あの組と敵対しているその組の若頭と兄弟分。同じ組でも、いくつかの派閥に分かれていて内部抗争をやっている。そして、友好関係だったのが、次のシーンでは誰かの裏切りで敵対するし、殺し合いをやっていたのが、仲良く手打ちをしている。
 ストーリーを追う必要はない。欲望をぎらぎらたぎらせた、男たちの殺し殺され、裏切り、裏切られを見ていればいい。暴力シーンはひたすらみっともなくこっけいだ。主に凶器は拳銃を使っているが、飛び道具でありながら、ごく至近距離から何発も撃つ。あたかも、拳銃をドスのように使う。
 この映画の登場人物は、こんなことをしなくては、終戦直後の混乱期を生き延びれなかったのだろう。しかし、小生の親たちは、こういうことをしなくても生き延びて、小生たちを産んだ。ところが「仁義なき戦い」を繰り広げたヤクザたちは、これしか生き延びるすべを知らなかったのだろうか。別の方法もあったろうに。それを観ていると、大変に哀しく、かつ滑稽で可笑しい。この映画、活劇ではなく悲喜劇として観た方が正解かもしれない。

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コメント
 
 
 
お薦めの一冊 (アブダビ)
2016-12-16 00:38:12
仁義なき戦いシリーズは、人のよく解らん抗争を、単純化して捉える時に役立つ。
これはカリスマ予備校講師の書いた「やりなおす経済史。本当はわかってない人の日2時間で読む教養入門」を読んだときにも感じました。
経済史を仁義に例えて語る入門書ですが、2000年代のリーマンショック、世界同時不況、ギリシァ問題の章題が、
「親分重態、オジキは仲間割れで、抗争は地みどろ地獄へ」(笑)
人の歴史を理想や知的好奇心でなく、「業と欲望」から切り取る時に、「仁義」は実に日本人には解りやすいテクストなのですね。
仏の従兄弟の旦那も大の日本カルチャーマニアですが、健さんとは別な衝撃を受けたそうです。健さんに憧れ「任侠」て文字を第二の家紋として使う勘違い白人には衝撃だったようで。

枕が長引きましたが、今回のお薦めは、
ちくま文庫の、
神架恭介「仁義なきキリスト教史」です!
キリスト教=キリスト組。信徒=ヤクザという設定で、全編を広島弁で描いたキリスト教史。
なんせイエスの、
「主よ、主よ、何故に我を見捨てたもう?」
が本書では、
「おやっさん、おやっさん、なんでワシを見捨てたんじゃあ!」になる(笑)
本屋の平積で帯にある、
「あいつら、言うてみりゃ人の罪でメシ食うとるんで」
には大爆笑して他客にうろんな奴目線を送られました。(神道の氏子さんには解んねーだろうな!彼らには原罪て意識がないから)
基本的にはキリスト教成立(イエスはユダヤ教の異端であって、キリスト教徒ではない!)の時期が重点なのですが、私には中世・近世が面白かった!

ルターが、を卑劣な親分衆の前で、祭壇にぶっ放す菅原文太に見えるし、彼が農民反乱を武力鎮圧した人であるコトも書いてある。
「十字軍」が、(ムスリムへの)聖地奪還の大儀に始りながら、ビザンチン(東ローマ)皇帝(オーソドックス)と、ローマ法王(カトリック)の、
「銭の切れ目」で、キリスト教徒同士の「殺しあい」になっていく姿。
金子信雄扮する親分と、下の武闘派の断裂を思わせ、まるで「広島死闘編」です(笑)

知人のプロテスタント牧師や、カトリックのシスターは、「我々を愚弄している」とオカンムリですが、「敬虔でない」私には大いに笑えました。

まぁ難点を言うと、「仁義」は欲望で人を斬るには良い題材なのですが、剥出しに生きる人は社会の小数なので(そういう事にしておく)、
せっかくルターを扱いながら、「異端」の問題を語るに弱いこと。
まー、バチカンに刃向かう奴を「異端」としてきたのですけど、「新教」が「生き延びた」為に、「異端が異端でなくなった」!
これはアメリカの宗教右翼である福音派が、常にUSAの対外的膨張に果してきた意味が解らなくなる。
軍事や経済をメインにする「歴史」は、実は「宗教や文化や言語」を仲立ちとする歴史と実は「力の論理」では一体なのですが、
後者は「思想闘争」があるので、専門書を読まないと理解がしにくい!

つまり、私は「国家」と「山口組」とは大差のない集団と思うてます。
ヤクザと国家を一緒にするな!
かように保守も左派も言うのでしょうが、南米で麻薬組織がスラムに教会や病院や学校を建てて、地元民に慕われている姿を見ているので、
ヤクザと国家は基本的に同じと思う。
シマの中からショバ代(税金)を取り、シマの外からの侵略に武装で対処する。同じでしょ?
両者の違いは「通貨の発効」だけです!
でも通貨の発行は、「歴史に基づく信頼性」が背景にあって、そこには「歴史的な信用」つまり、文化のような「認知度」がある。
その点で「ヤクザに例える事」の限界性があると言わざる得ません!

とはいえクリスチャンでない方に、「仁義なき戦い」を観るノリで、キリスト教の 2000年史を楽しんで頂くには良書かと!
この著者、良いセンスをしています!
願わくば狂信的な連中に刺されない事を祈ります。日本でなきゃ出版できないエンタメ宗教史
。是非にお薦め!
こういう本を喜んでいるから、俺は教会から嫌われるんだろうな(笑)
カトリックもプロテスタントもオークションも
基本的に良い人ばかりなんです!
でも「善人」って息苦しいんですね!
その辺で不良クリスチャンとしては、なかなかの「お薦め本」です!
 
 
 
アブダビさん (雫石鉄也)
2016-12-16 10:17:08
ヤクザも国家も宗教も、しょせん、人間がやることですから、どれも似たようなものでしょう、
 
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