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クロストーク


 コニー・ウィリス     大森望訳      早川書房

 豪腕。女性を呼ぶにはいささか失礼ないい方かも知れないが、コニー・ウィリスは豪腕作家だ。彼女はたいへんな腕力の持ち主である。
 EEDという手術を受ければ、なんの器具も機器も使わずに、人と意思を伝え合うことができる。テレパシーといってもいいかも知れないが、テレパシーとは少し違うようだ。ウィリスはそのへんの違いは明確には書いてなかった。
携帯電話会社に勤めるブリディ。彼女には恋人がいる。社内一のイケメンで有能エリート社員のトレントだ。トレントと心と心で直にコミュニケーションを取りたいと思い、EED手術を受けようとする。
 ところが伯母さん、姉、妹といった親族は大反対。さらに社内一の変人といわれるCB・シュウォーツもなぜかブリディの手術に猛烈に反対する。
 かような反対を押し切ってブリディは評判の名医ドクター・ヴェリックの手術を受ける。麻酔からさめると「人の想い」が直接ブリディの脳内にどっと飛び込んできた。それは最愛の彼氏トレントの想いではない。なぜトレントとコミュニケーションが取れずに、替りにこんな人の想いが私の頭に入ってくるんだ。
 と、こういうのが話の発端。こんなネタだと凡庸な作家なら30枚程度の短篇、せいぜい100枚ほどの中篇にしかならないだろう。ところが豪腕ウィリスはその腕力でもって、ハヤカワ版で上下2段組700ページの大長編に仕立てあげてしまうのだから、たいへんな腕力だといえよう。
 では、なぜ 「人の想い」が直接脳内に届く。これだけのネタでこんな大長編になったのだろう。それはそこ、ウィリス女史の得意技、ドタバタ、すれ違い、行き違い、思い違いのつるべ打ち。だいたいが、主人公のブリディがアホで鈍感。せんでもええことをして騒動を大きくする。それに社内一のおしゃべべり女「雀のスーキ」「雷のスーキ」のスーキとか、過保護ママの姉のメアリ・クレア、クレアの娘で過保護の被害者で頭脳明晰性格勝気の姪のメイブ、社内一の変人CBなどがからんでくる。
 さまざまな出来事で読者の興味をつなぐ。麻酔から覚めたブリディ。どうもおかしい。ところが執刀医のドクター・ヴェリックがどこにおるかわからん。
 そうこうしているうちに、余計な「想い」がどんどん頭に流れこんでくる。ベッドに寝てられん。病室を抜け出し院内をウロウロ。看護師さんに見つかればしかられる。ウィリスお得意の病院内のドタバタさわぎ。
 それでもなんとか退院。「雀のスーキ」に見つかりたくない。伯母や姉妹にも見つかりたくない。で、どこに車を停めよう、とうろうろ。これだけで数ページ読ませる。こんな具合で気がつけば700ページ読んでいた。恐るべしコニー・ウィリス。
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