近畿地方の古墳巡り!

歴史シリーズ、第九話「近畿地方の古墳巡り」を紹介する。特に奈良盆地・河内平野の巨大古墳・天皇陵の謎などを取上げる。

奈良県広陵町の牧野古墳とは!

2011年02月26日 | 歴史
牧野(ばくや)古墳は、昭和35年頃から馬見丘陵の開発計画が具体化し、丘を削り、谷を埋めて、真美ヶ丘ニュータウンや西大和ニュータウンなどの住宅地が開発された場所にある。

両側に小綺麗な住宅が続く車道の坂道を登り切った右手に、樹木に覆われた一角が牧野史跡公園。

本古墳は、馬見丘陵では数少ない横穴式石室を持つ古墳であるばかりでなく、県下でも最大級の横穴式石室として、学術上貴重な古墳。

国指定史跡の牧野古墳を永久に保存するため、多種類の植樹を行ない、遊具、散策路や案内板を設けて史跡公園らしく整備されている。









写真は上から、国道沿いの牧野古墳サイドビュー、牧野史跡公園の案内板、森に覆われた同古墳光景及び墳丘の様子。

牧野古墳は丘陵の稜線上から南に延びた支尾根の端を整え、円形に造られた大型円墳で、直径が約55m・高さは13mほど。

三段に築造され、三段目の封土の中に巨石を使った横穴式石室が築かれている。

昭和58年に実施された調査によって、巨大な花崗岩を使用した全長17.2mの両袖式横穴石室の全貌が明らかになった。

馬見丘陵地帯は粘土の山で、「豆山3里小石一つ無し」と言われているほど自然石の少ないところ。ちなみに、豆山とは馬見丘陵のこと。

それにもかかわらず、最大の石は60トン近い大きさで、奈良県では石舞台古墳の天井石についで二番目の大きさらしい。







写真は、牧野古墳の横穴式石室開口部、同石室内部及び同石室天井部光景。

すでに石室の入り口は開かれ、盗掘されていたため、当初副葬品はすでにないと思われていた。

全長17.2mの大型石室の内部には、奥壁に添って横向きに刳抜式の家形石棺が安置され、その手前には組合せ式の家形石棺が置かれていたらしい。

羨道は長さ約12m・高さ約2m・幅約1.8mで、玄室は長さ約7.0m・幅約3.3m・4.5mに及ぶ。

家形石棺は盗掘によってほとんど破壊されていたと云う。

予想に反して、副葬品は意外に多く残され、総数で2万点にもおよんだ。装身具類では金環、金銅製梔子(くちなし)玉・ガラス小玉・粟玉など各種の玉類。



写真は、牧野古墳から出土した鞍金具・杏葉など。

馬具は本心鉄地金銅張の壺鐙(つぼあぶみ)、縁金具のある障泥(あおり)、心葉形の鏡板と杏葉等が出土したと云う。

武器は、銀装の大刀と400本近い鉄鏃が見つかり、羨道に集中していた容器類の中には、木心の金銅張容器と総数58点の須恵器があったと云う。

須恵器の形式その他から6世紀後半から末葉にかけて築造された墓であることが分かった。

全長100mから200mの前方後円墳が数多くある馬見古墳群の中では、直径50m余りの円墳は決して目立つ存在ではないが、注目しなければならないのは、巨大な前方後円墳が築かれなくなった、6世紀後半から末葉に造られている点。

大和地方の最後の前方後円墳は、明日香の欽明天皇陵であると言われており、その後は一辺50m程度の方墳が王陵の墓になる。

したがって、円墳と方墳との差はあるが、牧野古墳は築造当時としては最大級の墓だったと云える。

牧野古墳の石室は、桜井市の“赤坂天皇山古墳”のものと非常に似ており、同じ設計構想から、同じ技術集団によって築かれたと考えられるらしい。赤坂天皇山古墳は方墳だが、被葬者として崇峻天皇が想定されている。

崇峻天皇は、西暦592年、蘇我馬子が放った刺客・東漢駒(やまとのあたいこま)によって殺された。方墳と円墳の違いが、天皇の墓と天皇より少し身分の低い人の墓の差であると仮定した場合、牧野古墳の被葬者は、崇峻天皇が死亡した頃の皇族ではないかと考えられる。

延喜時代(927年)に編まれた『延喜式』には、敏逹天皇の皇子で舒明天皇の父にあたる押坂彦人大兄皇子(おしさかのひこひとのおおえのみこ)の墓は、大和国広瀬郡にある成相墓(ならいのはか)であると記されている。

広瀬郡は、現在の河合町や広陵町にまたがる地域で、その大半は馬見丘陵が占めている。

驚くべきは、『延喜式』に記された成相墓の墓域の広さである。

東西15町・南北20町で、『延喜式』に記された墓域では最大の広さを誇る。古くは、この付近が牧場としてしか利用できない不毛の丘陵であったことから、広大な墓域を設定できたものと推定される。

一方、馬見古墳群を構成する墓は、いずれも前期から中期古墳時代のものであるが、牧野古墳だけが後期古墳時代の墓であり、『延喜式』の記述は正しく、考古学会では、牧野古墳が押坂彦人大兄皇子の相成墓である可能性は高いと考えている。






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