話を聴かせてもらっている間に、お盆がひとつ、運ばれて、座敷の縁に用意されます。
座敷に上がらず、味をみる姿に、私はかつての商家に買い付けにきた者の姿を重ねていました。(微笑)
冷たい水を満たした杯と。
上に、酒びたしを、細く裂いた品。
右手に塩引を焼いた品。
左手に鰊の甘炊きを。
おしぼりを添えて。
噛むごとに、酒びたしの、風雅な味に惚れていきます。
いま、私の背中をみているだろう、鮭だった形代に。旨いね、ありがとう、と胸があつくなりました。
振り向けば、鮭の林。
そこには、鮭を祀る気持ちも、きちんとあって。
座敷の隅の家の御仏壇と、土間の中央にある祀り処とが、共にある暮らし。泣けてきました、私は。
作業場は奥へ続きます。浄めの願い、命を預かり、また新たな食の命に変えることへの許しを願う気持ちを、私は受けとりました。
ここに寄せて貰えた有り難さを、しみじみ、思いました。
塩引鮭をお使い物の最上級とだけ、親に教えられた私の視点を、きれいに、ひっくり返してくれた(笑)学びの時でした。
されど、村上の鮭を知らなければ、ここには来なかった、のも事実です。知識は繋がって、さらに豊かな学びとなる、とも思いました。
学びの時間を離れて、商家の店先に戻りました。ショウケースの冷気に、こちら側にもどってこれた、と感じました。
買い物というだけでなく、鮭と暮らす街の作品、を見るように感じました。(微笑)
あの鮭びたしを創るために活かされたお酒。村上には、大洋盛と〆張鶴があります。鮭の吉川の隣をしっかり見てきました。
鮭を食に変えてくれた力は、酒でした。
鮭と酒と人。大事なこと、覚えておきます。
酒屋側から、鮭屋を見やる。古い街並みに、たしかに続く、暮らしを思った時間でした。
■千年鮭 吉川(きっかわ)、新潟県村上市大町1-20