<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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今回の旅の目的地がベトナムになったのはそれなりに理由があってのことだった。
ハネムーンになる旅行だから、ということで私はいつもとは違った特別な旅を計画。
目的地にアメリカのニューヨークを希望した。
ブロードウェイミュージカルやジャズを楽しみ、大阪でも東京でもないNYのスタバでお茶をして、地下鉄に乗って数多くのギャラリーなどを見て回ろうと思っていたのだ。
普段、東南アジアばかりを旅している私にしては大胆な計画で、これも休みを多めにとっても文句を付けられにくいハネムーンという特別な旅行だからだ、と考えてのことだった。
かなり張り切った旅で未来の嫁さんも即座に賛成してくれていた。

ところが、この目的地ニューヨークがベトナムに変わるのに時間はさしてかからなかった。

私の嫁さんになった女性には十歳になる娘が一人いた。
ホニョ(もちろん仮名)という名前でノホホ~ンとした大変性格がおおらかで良い娘だった。
幸いなことに早い時期からホニョが私に懐いてくれたことで、私も人生における最大の決意、つまり結婚することを決めるに至ったのだ。
このホニョ。
大変おとなしく、勉強の出来も悪くなく、時にものすごくお喋りで陽気な性格をしているのだが、いかにせん現代の日本娘。
かなりおっとりしている。
それもあまりにスローし過ぎているために、どうも「シッカリしていない」という印象がぬぐえないことが多い。
ポジティブな性格は大いに大切にしてあげるべきだが、大人になってもノホホ~ンでは困る。
親としてこちらは心配するばかりだが、なんとかそのノホホ~ンとした性格を矯正するための良い方法はないものかと検討した結果、次のようなアイデアが浮かんだ。

東南アジアに行けば経済的な事情で十歳にもなれば街に出て働いて家計を助けなけばならない子供たちが沢山いる。
いや、十歳どころか日本で言えば幼稚園年長組ぐらいの頃から兄弟姉妹の面倒を見ている子供たちも少なくない。
私の父母や祖父母の代ではそんな光景は日本でも珍しくなく、六十年代生まれの私でも家業を手伝う小学生の友達は少なくなかった。
私も夏休みなどは父の会社の倉庫の手伝いなどをしたものだ。

ところが今の日本は恵まれすぎているのか狂っているのか、子供が現実の社会に触れる機会が著しく少ない。
そこで、私はホニョを東南アジアの国に連れていき、自分と同じ世代の子供が堂々と家事を手伝い、街で働いている姿を見せカルチャーショックを受けさせてやろうと考えたのだ。
このアイデアに未来の嫁さんも即座に同意してくれた。
彼女も自分の娘に同じ思いをもっていたのだ。

早速、どこへ行くかの吟味が始まった。
まず私は、ここ数年の間、何度も訪れて大のお気に入りになっているミャンマーへ行くことを考えた。
ここであれば孤児院を併設しているお寺も知っているし、地方や少数民族の子弟を預かり教育に努めているお寺も知っている。
とりわけ後者のお寺は私自身寄進もしたことがあり、80歳を超えるご住職は立派な方で説法を受けるのも大変勉強になると思ったのだ。

ところが嫁さんが「ミャンマーは怖い」と言うのだ。
なんでも数年前に日本人ジャーナリストが殺害されたような自由の無い、軍事独裁の国家は危険が一杯で子連れの旅などしたくないと言う。
これには私は困ってしまった。
テレビやラジオ、新聞が伝えるミャンマーの姿は真実とはほど遠く、まして一昨年のデモ騒ぎで殺害された日本人ジャーナリストがいかに迷惑な御仁であったかなど、まったく伝えていないのだ。
自信を持ってミャンマーの都市部は安全だと断言できるのであったが、さすがにアジア旅行の経験のない嫁と娘を伴ってのミャンマーはかなりタフなものになるに違いない。
私はミャンマーを訪れることをとりあえず断念した。

次に私は「タイはどう?」と訊いた。
なんといっても微笑みの国、タイ。
在留邦人は10万人以上。
バンコクはここ数年で驚くほどインフラが良くなり移動にも困らない。
現地の食事に飽きたらマクドナルド、ミスド、8番ラーメン、すし屋、居酒屋など日本でもお馴染の味にも困らない。
ホアヒンのようなリゾートに行くとリラックスできること太鼓判である。

ところがタイも否定されてしまったのだ。
なぜなら昨年末からバンコクを中心に再三繰り返されている元首相タクシン派と反タクシン派の政争による空港閉鎖などが危惧されてしまったのだ。
日本国内は不況でリストラの嵐が吹き荒れているのに、もし空港閉鎖で何日も足止めを受けたりしたら帰国しも仕事がなくなっているかも知れない、というのが心配の理由だった。

で、残されたのがベトナム。

最近のベトナムは中国の影響もあり経済が急速に発展していて日本でもポジティブな話題が多い。
女性誌では盛んにエステやリゾートが話題になっているようだ。
私も5年前にサイゴンだけを訪れていて、ちょっとは雰囲気を知っている。
もちろん、社会の構造は他の東南アジア諸国とも似通っている。
それに食事が日本人の舌にマッチしている。
娘のためにもなりそうだ。

そんなこんなでハネムーン旅行の行き先は無難なベトナムに決まったのであった。

つづく

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