<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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iPhoneとMacでお馴染みのアップル社の創業者の二人のスティーブ。
一人は故スティーブ・ジョブス。
もうひとりはスティーブ・ウォズニアック。

「アップルを創った怪物」

はそのスティーブ・ウォズニアックの自伝だ。

そもそもアップルといえばいつもスティーブ・ジョブスばかりが前面に出てくるが実はアップルの技術的な面はウォズニアックが全てを生み出したといっても過言ではない、ということを聞いていた。
本書ではアップルコンピュータが生まれた過程を技術製造面から実際に設計して組み立てた本人が語っていて非常に面白い。
近代ITの歴史書としてはなかなか興味深いものがあった。

実際にアップル社の最初の製品「アップル1」は他に例を見ない電子オタクのウォズニアックが一人で設計して一人で部品を集めてきて一人で組み立てたものであった。
それを類まれなる営業力を発揮するジョブスが地元のパソコンショップに売り込んだところから同社はスタートする。
最初の受注額は5万ドル。

当時は珍しい完成キット製品だったアップル1を地元シリコンバレーの小売店が「買うよ」と言ってのはいかにも牧歌的だ。
カリフォルニアの長閑な雰囲気がただよっており漫画スヌーピーとチャーリーブラウンみたいな世界だ。

アップル1の1台の価格、666.66ドルはジョブスが「目立つから」という理由で設定。
彼は「666」が持っている宗教的意味は知らなかったという。
部品調達の金など無いので、保証人を一人頼んで支払いながら部品を小出しに売ってもらい、組み立て作業員は本人たちはもちろん友人家族総動員というのものであった。
アップル1にはあのジョブス自身が組み立て製品が存在するのだ。
さすがオークションで6000万円の値段がつく理由がわかるような気がする。
だてに木製手作り躯体に下手な字で「Apple Computer」と書かれているだけではないわけだ。

そう、あのアップルは1人の超オタクと、1人の超強引な性格の学生もどきが作り上げた会社だったのだ。

それにしても面白いエピソードが満載だった。

例えばアップル1が出たときはアップル社は会社ですらなく、二人の創業者は片やヒューレット・パッカードの社員であり、もう片方は学生でTVゲームアタリ社のアルバイトだったのだ。
さらにさらに面白いのは、アップル1に目を付けたコンピューターメーカーがアップル1の技術と二人を買い取るというオファーを持ってきた時に、
「製品と二人の契約代金として数十万ドルを用意してください」
と思いっきりふっかけたので笑われてせっかくのチャンスが終わってしまったのだった。
ふっかけたのはもちろんジョブス。
それを横で聞いていて思いっきりずっこけるウォズニアックの姿はまるっきりコメディとしか言いようがない。
二人は自分たちのコンセプトをそれぞれの勤務先とアルバイト先に持ち込むが、どちらも実現できないという。
「なんでやねん」
という感じだ。

歴史にもしもはないにしろ、もしもそのコンピューターメーカーが二人に数十万ドルを出していたら、もしもアタリやヒューレット・パッカードが二人のアイデアを受け入れていたら。
今のアップル社は存在せず、コンピューター業界どころか、コンピューター文化はおろか人々の生活スタイルの多くが今とは違ったものになっていただろう。
歴史は面白い!

この話を聞いていてふと日本にもほぼ似たような話があったことを思い出した。
ソニーの創業者である井深大と盛田昭夫の物語だ。

井深大は早稲田大学を卒業後、東芝の入社試験を受けるが不採用。
PCLに入社したがPCLが映画のフィルムの現像を請け負うことがメインの仕事で、
「あんな作り話の仕事なんか」
と嫌気が差し辞めてしまったという。
もしも井深大が東芝に入社していたら今のソニーはなかったわけで、実用量産のトランジスターやダイオード、CCD素子は一体誰が作ったのという歴史の面白さがある。

一方、盛田昭夫は名古屋の造り酒屋の長男でやりて。
軍で知り合った二人は井深大が技術面を、盛田昭夫が営業面を受け持って戦後すぐに百貨店の一部を借りて東京通信工業を立ち上げた。
今のソニー。
で何を売っていたのかというと、ご飯の炊けないインチキ炊飯器なんかを堂々と販売して戦後の危機を切り抜けやがて電子デバイスとエンタテーメントの世界トップ企業になっていく。

実に似たような話なのだ。

スティーブ・ジョブズがアップルに復活したとき、
「私はアップルをソニーのような会社にする」
と言ったのは、あながち両者の歴史を知らなかったわけでもなさそうだ。

ともかくマニアというかオタクの辿った歴史は文句なしに面白い。

読んで元気が出て良かった一冊なのであった。


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