陪審員制度が始まるので、この手の裁判傍聴体験記といってもいいようなジャンルの書籍が続々と出てくるのだろう。
書店でこういう裁判制度に少しでも関わる書籍を発見すると、どちらかというとまったく読みたいという気分が起こらず、ましてそれを手に取り、買い求めてしまうなんてこともあり得なかったのだ。
その背景には、私は日本での陪審員制度は必要ないと考えているからでもあり、今回の陪審員制度の復活は若い頃は学生運動で好き勝手、長じてからはバブルのお祭りでこれまた好き放題、そういう団塊の世代の最後の陰謀と信じているからでもある。
なのによって、裁判なんぞというものには見向きもしたくなったのだ。
ところが今回、会社の部下から、
「この本、おもしろいっすよ」
と勧められたことをきっかけに裁判関係の本書「裁判長!.....」を読むことになった。
本書は著者が実地に裁判所に出向き、さまざまな裁判を傍聴した体験記だ。
本書を読んで一番最初に感じたのは、
「こんな面白い劇場を見逃していたなんて。しかもタダやし。」
ということだった。
日本のような民主国家では一部の特例はのぞき、裁判は一般大衆に開放されているものだったのだ。
裁判の公開は民主主義の原則の一つでもあるわけで、公開することにより、おかしげな判決(中国でよくだされるようなヤツ)がくだされることを防止する役目もになっている。
アメリカでは確かテレビで放送されているぐらいのものなのだ。
裁判はもちろん脚色のないドラマだった。
殺人事件に登場する犯人は本当に人を殺した人間だし、児童虐待を働いた大人の女もやはり虐待する人間だ。
弁護士や検事も本物であるわけで、裁判所の中でおこなれている公判は、リアリティ溢れるドラマに他ならないのだ。
本書の著者の切り下げには、少しばかり物足りなさを感じることがなくはないが、裁判所を劇場代わりにうるその考えは、なかなかなものだと思わざるを得なかった。
仕事で時々役所周りをすることがあるが、これからは少しは裁判所も訪れてみようと思ったのであった。
~「裁判長!ここは懲役4年でどうですか?」北尾ヒロ著 文春文庫~
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みんな「オレには裁判なんて関係ない」と思っていますが、傍聴するとこの著者のように考えも変わります。
ニュースを見ていて、凶悪殺人犯に温情判決が出ると「こんなヤツは死刑じゃ!」と憤っているくせに、裁判員制度(陪審員とちゃいまっせ)が始まるとなると自分はかかわりたくないと思っているのも、よく考えれば矛盾であります。
刑事裁判は決して私たちと無関係ではありません。治安を維持し、我々に代わって悪人を処罰するのです。
いつ私たちも犯罪に巻き込まれるかわからないのです。また、報道がいかに事件の一部しか報じていないか、傍聴をするとそれらがよくわかります。
おそらく日本人にとって刑事裁判は葬式と同じ「ケガレ」なのでしょうね。確かに非日常的空間がそこにはあります。でもそれは「現実」でもあるのです。
ぜひ、傍聴に出かけてください。
但し、何点か注意してほしいことがあります。
・裁判所によっては、水曜日は公判が少ないなど事情があります
・できれば、初公判から見ましょう。事件の概要がよくわかります。
・初めて傍聴するなら窃盗などの単純な犯罪が吉。凶悪事件における検察側の冒頭陳述では、相当生々しい描写が行われるので私でも気分が悪くなることがあります。
・法廷ドラマのような丁々発止はあまり期待しない方が・・・。
Amazonのレビューではかなり賛否が分かれる本書ですが、キッカケとしてはそこそこおもしろいと思います。北尾トロ氏の続編もお読みください。
映画「12人の怒れる男」は名作ですが、三谷幸喜脚本の「12人の優しい日本人」は、日本人の特性をよく表現した傑作です。こちらもぜひ!
http://info.movies.yahoo.co.jp/detail/tymv/id151574/
毎度のことながら長文、失礼いたしました。
さすが法学部のご出身、なかなか良いことをおっしゃっていただきありがとうございます。
かのジョン・ヒューストン監督は映画「ロイ・ビーン」の中で、縛り首は公開にしなければならない、ということを主人公のビーン判事
ポール・ニューマン主演)に言わせています。
しかも「子供こそ、見るべきだ」と言っています。
私はこの映画を高校生の時にテレビの洋画劇場で観たのですが。大いに賛成し、今もなお賛成していることを覚えています。
裁判であれば、なおのこと。
陪審員制度が復活するのはともかくとして、裁判は一度は観ておかなければならないものだと、思いました。
それはもちろん、面白さということ以外に、自由と責任を守るためには大切だからとの気持ちを持ってです。
なお、三谷幸喜の映画は観たことがあります。
ちょっとスリルに欠ける映画でしたが、悪くもありませんでした。