マスコミの報道と同じく、自分の放射線に関する知識が限りなくいい加減なので何か良い書籍はないものか、と書店の科学コーナーをウロウロしていたらブルーバックの「世界の放射線被爆地調査」(高田純著)を見つけた。
この本は、広島大学教授の著者が世界に点在する放射線被害を受けた場所を訪れて実地に調査したものをまとめたものだ。
客観的に調査していることに加え、それぞれの地域の苦しみというものを単なる科学者ではなく人間という視点から見つめているのが印象的だ。
ビキニ環礁。
チェルノブイリ。
東海村。
などなど。
名前を耳にして知らないところはないくらい、「被爆したこと」で著名な場所だ。
ここに福島県が加わることになるのだろうが、こんなことで世界の歴史に名を残すようなことは決して繰り返してはならず、福島原発事故の一刻も早い終息が望まれるところだ。
本書を読んでいてやはり「広島」という言葉は、世界の被爆地域にとって特別な場所であることを改めて感じた。
「日本の広島の大学から先生が来ている」
日本の、ではなくて、広島の、という言葉で旧ソ連の片田舎でも、南太平洋でも現地の人達は調査にきた者を信頼して、放射線の影響を訊ねにくる。
そこには自らの政府が発表する調査結果ではなく「広島の」学者だからこそ真実を語ってくれるのだ、というような雰囲気があるのだ。
チェルノブイリの被害にあった一部の地域のように、未だに人の住めないところがあることに愕然とすることもあるが、ビキニ環礁のように、人が住んでも大丈夫にまで放射線の影響が薄れた場所もあることに、なんとなく胸をなで下ろす気持ちになる。
ところで、本書の中で最も印象に残ったのは、実は放射線の調査報告ではなかった。
著者も本書の中に記しているが、「広島の復興について記された書物がほとんどない」ということに少なからず驚き感じた。
著者は簡単に昭和20年8月6日以降の広島の復興へ向けた動きを紹介しているが、これを読んでいると、福島原発の終息に向けて活動する多くの人々はもちろんのこと、今の日本人全員は広島がいかにして復興し、人口120万人の大都市へと発展したのか学ぶ必要があると感じたのだった。
人類初の放射線被害。
それも原発ではなく、原爆。
高度600メートルで数億度の火球が炸裂し、その高熱と放射線、中性子の嵐。そして秒速200メートル以上の風が街を根こそぎにした。
死者はその年の12月までに14万人。
市民の3人に1人が命を落とした。
津波で破壊された東北の沿岸の街よりもさらにひどい状態だったかもしれない広島の街。
今、その戦後は「悲惨さ」だけが強調されるが、その復興力には目覚しいものがあったようだ。
以下引用
8月6日 原爆投下
8月10日 京都帝大調査
8月15日 終戦
9月17日 枕崎台風被害発生
10月1日 理化学研究所調査
10月~ 仮設住宅の建設
11月~ 路面電車の広島市内主要路線が営業再開
11月18日 えびす神社再建、翌日祭り
1月8日 広島復興局設置
4月 5カ年に及ぶ広島復興都市計画決定
5月31日 市内水道70%復旧
そして8月には新芽が発芽して緑が街に戻り初めた。
現在の広島は区画整備がきっちりとなされ、地方都市にしては広い道路や路面電車の交通網が発展している。
正直、美しい街だ。
これは原爆被害にめげずに、逆にそれを機会に都市整備に着手した当時の人々の強い実行力と決断力、そして日本人としての精神力の賜物だと言えるだろう。
菅総理に当時の広島の人達や国の指導者の能力の数パーセントでもあれば、今のような事態に陥っていないはずだ。
ということで、本書はタイムリーで是非一読をオススメしたいと思っている一冊だ。
なお、広島で生まれた原爆2世に放射線被害者はゼロなのだという。
これも福島県とその周辺地域に人々にとっては、勇気をくれる情報ではないか、と強く思ったのであった。
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