平ねぎ数理工学研究所ブログ

意志は固く頭は柔らかく

マス苦の歌

2022-09-30 18:34:15 | 短歌・詩

ウイルスに蹂躙さるる春は悲しマスクしてシュークリーム買ひぬ(小島ゆかり)
潜伏期といふ無言が恐怖呼び戸棚の奥のマスクをさがす(栗木京子)
マスクもて閉ぢたる表情、息遣ひ こころ見えがたくす新型ウイルス(蒔田さくら子)
怪盗のごとくに黒きマスクして人は行き交ふ春の銀座を(小柳素子)
黒ひげか黒マスクなのかわからざる男が駅の向こうから来る(中川佐和子)
不織布のマスクのなかに暖まり酸乳のようなにおいも嗅ぎぬ(浜名理香)
花も木も雲もマスクをしておらずわれら均しく塗りつぶされて(松村正直)
ふくらんだままのマスクが道にあり街にも口があることを知る(川島結佳子)
薄羽のマスクこぞって飛び去りぬわれらが使い捨てにされおり(遠藤由季)
マスクがないと泣いている君こんなにも生きているのが遠い日暮れに(佐伯裕子)
富士山のきれいな朝にしろたえのマスクの人がつぎつぎに乗る(後藤由紀恵)
気がつけば立春の朝、紅梅の花あふがむとマスクをはづす(小林幸子)
白加賀の耀い咲ける花のした感染よけのマスクを外す(金子正男)
はなにらのさく土手をこえ多摩川のほとりにゆかんマスクはずしに(藤島秀憲)
マスクする子らもマスクをせぬ子らも名を呼ばるれば竹のごと立つ(本田一弘) 
あの春のマスクは十分足りてゐてうさぎのやうに孤独だつたと(大口玲子)
黒いマスクが似合ひさうなる啄木は「時代閉塞の現状」を書きし(米川千嘉子)