平ねぎ数理工学研究所ブログ

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プロの眼から見た耐震偽装事件(8)

2008-03-30 23:39:37 | 耐震偽装
現行の耐震設計は、2段階の検討を行うことになっています。

<1次設計:中規模地震動に対する検討>
建物の耐用年数中に一度ないし数度経験する程度の、比較的頻度の多い中規模地震動に対しては、ほとんど損傷は生じない。

<2次設計:大規模地震動に対する検討>
きわめてまれに遭遇するかもしれない大規模地震動に対しては、建物に多少の損傷が生じてもやむを得ない。しかし建物の倒壊、破損その他派生する災害により、人身に危険の及ぶようなことがあってはならない。

耐震偽装事件で耐震性の評価に使われたQu/Qunは、大規模地震動の検討に用いる指標です。
QuとQunの意味はつぎのとおりです。
Quは建物の耐力です(保有水平耐力)。
Qunは大規模地震動によって建物に生じる力です(必要保有水平耐力)。
QuがQunよりも大きければ(Qu≧Qun、またはQu/Qun≧1.0)、建物の耐力が大規模地震動の揺れの力を上回っているので建物は倒れないことになります。
ところが、QuもQunも相当いい加減な代物なのです。つまり、両者とも精度が悪いのです。いい加減なものをいい加減なもので割ると、出てきた答えは当然いい加減なものです。
いい加減な指標を基にこの建物は安全だとか危険だとかが判定されて、危険と判定されたら最後、行政措置が執行され退去命令そして解体です。たまったものじゃありません。

そもそも、Qu/Qunは設計のための指標です。設計目的に限定して用いられるべきであって、倒壊可能性の判定に用いるのは使用目的を逸脱しています。
「Qu/Qun≧1.0ならば安全である」は、精度は別にして建前上一応は言えます。けれども、Qu/Qun<1.0なら危険だとは言えません。例えば、Qu/Qun=1.0の建物と、Qu/Qun=0.5を比べると、Qu/Qun=1.0の建物の方がより安全であるということは言えるが、Qu/Qun=0.5が危険だとは一概に言えないし、ましてや倒壊する可能性が高いなどとは絶対に言えません。

「震度5強で倒壊のおそれあり」は荒唐無稽です。 Qu/Qunは大規模地震動に対する指標であって、中規模地震動に適用するためのものではないからです。だから、Qu/Qunがいくら小さくても、「震度5強程度の中規模地震でも倒壊または大規模な破損のおそれがある」などとは言えないのです。