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平ねぎ数理工学研究所ブログ

意志は固く頭は柔らかく

プロの眼から見た耐震偽装事件(6)

2008-03-26 22:29:25 | 耐震偽装
『[総力特集]マスコミ報道では知られざる真実』(建築知識2006年5月号)からの引用です。

引用ここから---

【国土交通省にきく「Qu/Qun<0.5」の根拠、Qu/Qun<0.5だと倒壊する!?】

国土交通省が定めた耐震強度の安全指標値にはさまざまな疑問の声が飛び交った。いたずらに一人歩きしている数値について、編集部では疑問点を直接国土交通省にぶつけてみた。取材は住宅局建設指導課担当官が応じてくれた。

○編集部 危険な分譲マンションの安全指標値の設定根拠について教えてください。

●建築指導課(以下、指導課) まず誤解を解きたいのは、Qu/Qun(保有水平耐力/必要保有水平耐力)が0.5未満だと今にも倒壊するような報道のされ方もあったようですが、そのような表現は一度も使っていないと思います。

○編集部 Qu/Qun<0.5が設定されるまでの過程について教えてください。

●指導課 今回の事件発覚当初に確認された姉歯秀次元一級建築士による偽装物件については、一次設計の段階で偽装が行われていました。特に、偽装発覚当初の竣工済み14物件では大胆な差替え偽装が行われており、緊急に再計算することを要しました。このため、姉歯元建築士が行っていた方法と同じく許容応力度等計算によって再計算を行ったところ、Qu/Qunが0.3程度の非常に低い数値のものがあるという結果がでたのです。当然、建築基準法上Qu/Qunが1.0以上でなければいけないわけですが、それが0.3だったらどうなのかというようなケースは今回が初めてであり、また、その場合にどう判断するかということについては確定していない状況でした。
ご存じのように、現在の建築基準法における耐震基準の考え方は昭和56年に導入されたものであり、中規模地震に対してはほとんど損傷を生じず極めてまれにしか発生しない地震に対しては、人命に危害を及ぼすような倒壊などを生じないことを目標とし、それぞれ一次設計、二次設計で検証することとしています。このような考え方は、平成12年の建築基準法令改正においても変わっていません。
したがいまして、今回のように、Qu/Qunが建築基準法の耐震基準を大きく満たしていないものは、大規模地震に対して倒壊などの可能性が高いと言えると思いますが、中規模地震に対する倒壊などの可能性についてオーソライズされた検証方法はありませんでした。
こうしたなかで、今回の物件は、二次設計の前提となる一次設計さえ満たしていなかったことを考慮し、さらに、二次設計のQu/Qunが建築基準法で定める値の半分にも満たないものに関しては、大規模地震で倒壊の可能性が高いのみならず、震度5強程度の中規模地震でも倒壊または大規模な破損のおそれがあると判断し、それを目安とすることについて関係地方公共団体と申し合わせがなされました。ですから、「必ず倒壊する」という意味ではありませんし、あくまでも「震度5強程度で倒壊するおそれがある」という表現だったと思います。

引用終 ---

>二次設計のQu/Qunが建築基準法で定める値の半分にも満たないものに関しては、大規模地震で倒壊の可能性が高いのみならず、震度5強程度の中規模地震でも倒壊または大規模な破損のおそれがあると判断し、…

話になりません。
判断の根拠を訊かれると困るはずです。
何の根拠もないからです。
どのように考えれば、このようなことが言えるのでしょうか。
(続く)

プロの眼から見た耐震偽装事件(5)

2008-03-25 23:41:58 | 耐震偽装
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080325-00000059-jij-soci
(有罪判決に不機嫌な表情=「間違いだ、控訴して」-直立不動、口への字・小嶋被告)

引用ここから---

「被告人を懲役3年に処する。5年間刑の執行を猶予する」。詐欺罪に問われた「ヒューザー」元社長小嶋進被告(54)の25日の判決公判。執行猶予付きの有罪判決に対し、小嶋被告は口をへの字に曲げ、不機嫌そうな表情を見せた。
 閉廷後には弁護団に「判決は間違いだ。控訴して正してください」と話したという。
 小嶋被告は午前10時、東京地裁の104号法廷に入廷した。濃紺のスーツ、ネクタイに白いワイシャツ姿。白髪が交じった髪はきれいに刈り込まれていた。
 毛利晴光裁判長が促し、小嶋被告は証言台の前に。「小嶋進でしたね」。裁判長に尋ねられ、同被告は「はい」と返答。有罪宣告を直立不動で聞いた。
 「無責任極まりない」「エンドユーザー軽視」。無罪主張が退けられ、指弾する裁判長の声が響く。約1時間に及ぶ判決理由朗読の間、被告人席に着いた小嶋被告は手を前に組み、鋭い目つきで前を見据えた。不機嫌そうな表情は終始変わらなかった。
 閉廷後に記者会見した主任の安田好弘弁護士は「誤った判決。客観証拠を無視し、あい路を探し出して有罪にする一方、刑罰的に執行猶予で妥協した。民事判決と見間違う」と批判した。

ここまで---

「判決は間違いだ。控訴してくれ」は、正直な気持ちだと思います。
小嶋氏はむしろ被害者です。真犯人は、マンション住民から住処を奪い、彼らを借金地獄に突き落とした国土交通省の役人です。

プロの眼から見た耐震偽装事件(4)

2008-03-16 23:34:54 | 耐震偽装
この事件は、解りやすく言うとこういうことです。

医師会の最高権威が、頭髪偽装医師による手抜き治療のせいで胃を悪くした患者に、Qu/Qunという検査薬を腫瘍マーカーとして使ってみた。すると数値があまりにも低かった。
驚いた最高権威は、問答無用で胃ガンと診断。早く処置しないと大変なことになると言って、Qu/Qunが0.5に満たない患者を対象に、胃透視も内視鏡検査も細胞診もその他の精密検査も何もせずに胃を全摘してしまった。
摘出したあとになって、その検査薬は精度が悪い上に腫瘍マーカーでも何でもなく、ガンの診断には使えないことが判明。他の医者がこっそりカルテをもとに調べなおしてみると、胃は確かに荒れているがただの胃炎で、投薬で治癒可能との結論に達した。
しかし、全摘のあとではどうにもならない。医療過誤だと言いたいけれど、最高権威がやったことだから言えない。医師会は、最高権威を守るために自主的に箝口令を敷いた(本音:最高権威に逆らうと後が怖い)。最高権威は医療過誤の責任を隠蔽し、頭髪偽装医師の処分と医療法の大幅改定にすり替えた。

プロの眼から見た耐震偽装事件(3)

2008-02-24 22:29:55 | 耐震偽装
姉歯元建築士の刑が確定しました。この事件の責任を彼一人が負うことになり、事件は終息しました。

私は、この結末は蜥蜴の尻尾切りだと考えています。

彼は確かに建築基準法に違反し、現行耐震規準を満足しない建築を設計しました。
しかし、彼が設計した違法建築がどれだけ危ないかについては、実はよくわからないのです。

「違法建築は危険な建築である」とは言えません。また同様に、「適法建築は安全な建築である」とも言えません。兵庫県南部地震では、現行耐震規準で設計されたのに崩壊した建物もあり、逆に、旧規準で設計されていたのに倒れなかったケースも数多く見られました。

「違法か適法か」の議論と、「危険か安全か」の議論は別物です。耐震偽装事件では、それらがごっちゃに議論されていました。そして、彼が設計した違法建築がどれほど危ないかについて十分な検証が為されないまま、国土交通省による行政措置(使用禁止命令→退去命令→耐震強度指標値Qu/ Qunが0.5に満たないものは解体)が執行された結果、マンション住民は住処を失い多額のローンに苦しむことになりました。さらに、マンション住民にとって気の毒なことは、建替マンションが、解体されたマンションよりも安全であるかどうかについては本当のところは判らないという点です。現在の耐震設計は精度において、その程度のレベルなのです。

この事件の核心部分は、国土交通省の行政措置が適切であったかどうかです。この点がうやむやになり、姉歯元建築士一人の処分と建築基準法の改定にすり替えられました。これは、被害に遭ったマンション住民と建築業界にとって、たいへん残念な結末です。

プロの眼から見た耐震偽装事件(2)

2008-01-11 20:10:42 | 耐震偽装
耐震偽装は耐震工学から見れば、たいした問題ではありません。
偽装の結果生じた耐震性の不足を病気に例えるならば、「風邪」をひいた程度です。
その程度のものを「重篤な病気」と誤診した国土交通省と、不安を煽ったマスコミの罪は重いと思います。

以下は、2005年の12月4日に「技術の杜ハヤブサネット掲示板」に書いたものです。いまでも考えは変わりません。

******* 「技術の杜ハヤブサネット掲示板」から転載、ここから *******

姉歯氏をはじめ構造計算書偽造に関わった人たちの行為は論外で、責められるべきは当然ですが、それとは別に国土交通省の責任も大きいと思います。
私は、国土交通省の11月20日付の以下の記者発表が問題を拡大したと考えています。
http://www.mlit.go.jp/aneha/20051120_.html(読売新聞11月20日(日)朝刊1面の記事に関して)

引用始
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しかしながら、地震時の強さに関しては、概ね震度5強の地震に対して倒壊するおそれがあるというものであり、いずれにしても早急な対応が必要なものと考えられる。
------------------------------------
引用終

「概ね震度5強の地震に対して倒壊するおそれがある」とはどのような根拠に基づいているのでしょうか?
青い炎さんの情報によると、「Qu/Qunが0.5以下のものを震度5強で崩壊するおそれがあるとして発表しているらしい」とのことですが、その情報が正しいとすれば、国土交通省の見解は全くの出鱈目です。耐震工学的には何の根拠もありません。

耐震規準は建物を設計するためのものです。建物の崩壊予測には使えません(本来動力学的な現象を、静的な現象に置き換えているのですから)。
崩壊シミュレーションは、今のところ非線形の地震応答解析による外はないのですが、
① 入力地震動がわからない
② 建物の復元力特性がわからない
③ 材料非線形と幾何学的非線形(P-Δ効果)を同時に考えなければならない(難物)
④ 答えが得られてもそれが果たして正しいかどうか全くわからない
等々、様々な課題があり、正確な予測を行うのは至難の業です。

私は長い間、建築系超高層構造物の耐震・耐風設計に携わってきました。その間培ってきた経験から言うと、RC建物は多少強度が不足していても震度5強程度では簡単には倒壊しないのではないか、という感触をもっています。

平成8年10月から気象庁震度階が改められ、従来の体感による観測が震度計で行われることとなり、震度5、震度6が弱・強の2階級に分割されました。
http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/leaflet/shindo/index1-1.html(1.震度計と震度観測体制 (1)震度の観測について)

新震度階が制定されてから現在に至るまでに発生した地震で、震度5強以上を観測した地震は23回あります。
http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/higai/higai1996-new.html(日本付近で発生した主な被害地震(平成8年~17年10月))

私の知るところ、震度5強で倒壊したのは2001年芸予地震の際今治市で倒壊したピロティ形式のマンションだけです。その建物は、ピロティ形式という耐震上の弱点の他に、柱の断面寸法が小さく、帯筋間隔が広い、見るからに危ない建物でした。

23回の地震では、夥しい数のRC建物が震度5強以上の地震動に遭遇したと思われます。また、それらの建物の中には、56年耐震基準を満足しない「既存不適格建築物」も多くあったはずです。にも拘らず、倒壊したRC建物は唯の一棟です(間違っていれば指摘して下さい)。
この事実は、RC建物は現行基準をクリアしていなくとも震度5強程度では簡単には倒壊しない、ことの証拠ではないでしょうか。

地震動の立場に立てば、建物を倒壊させるのは容易なことではありません。強い揺れが継続する時間は高々10秒~15秒程度ですからきわめて短時間の勝負です(建物はこの時間を我慢すればよい)。

建物を倒壊させるには、建物の耐力と靭性が不足していることに加え、次のような条件を満足することが必要です。①地震動の強度(SI値)が大きい。②建物の固有周期と地盤の卓越周期が接近している。③かつ、建物の固有周期が地盤の卓越周期よりも短い(接近していても、建物の固有周期が地盤の卓越周期よりも長い場合は比較的安全)。④加速度応答スペクトルの形状がなだらかである(マッターホルンのように尖っている場合は比較的安全)。⑤強い揺れの継続時間が長い、等々。

以上述べたことは一般論であって、今問題になっている個々の建物にどれだけ当てはまるか判りませんが、そう心配しなくても良いのではないかと思っています。震度5強のゆれでは、建物が崩壊して人命が失われるような最悪の事態にはなるまいと楽観しています。

******* ここまで *******

注)RCは鉄筋コンクリートの略語です。