紅茶は母の味

チャーリー・チャップリンの自伝に彼の母親の話が出てくる。
彼の母親が、小さな劇団の舞台女優として活躍していた頃は、生活もそれなりに裕福だったようだ。

だが、病気によって声が出なくなり、舞台から去る。彼の父も亡くなり、母一人、子一人、内職の針仕事で食をつなぐ貧窮のかぎりをつくしたらしい。
それでも、母親はチャップリンが帰ってくると祖父からもらった紅茶とかをいれて迎えてくれた。
そして、本を読んでくれたり、一緒に窓ぎわに座って道行く人を眺めては批評しチャップリンを笑わせてくれたらしい。
そんな母親だったのだが、無理がたたったのか極度の栄養失調と、生活苦により気が狂ってしまう。

いつも彼は、家に帰ると母が買ってきてくれる、お菓子の紙袋の中をのぞきこんだようだ。
母親が気が狂ってしまったその日も、わずかばかりだが紙袋の中にはキャンディが彼のためにとってあったらしい。
母親の紅茶。彼には特別においしかったんだろうなあ。





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