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tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

片足の折れた久米仙人ーバリに行く(ぞ)

2008-04-09 20:44:44 | 日記

退院の日が決まった時に真っ先に頭に浮かんだのは、また一人ぼっちの生活に戻ることだった。すっかり気弱になってしまった今は、そんなに長い間、孤独に耐えられそうもない。この退院後の一人暮らしの長さを考えた時、ぼくは反射的に、いつも有給休暇をなんとか取って海外のダイビングツアーへ行こうと頭を悩ませていたことを思い出していた。正月休みと5月の連休は、田舎で一人暮らしをしている母親の様子を見に帰る。だから、それ以外の時期にまとめて休めそうなチャンスがあれば海外で過ごそうといつも狙っているのだが、仕事が忙しくて全くかなわない夢だった。
再入院するまでの4週間。再入院の前の週に検査が必要なのだが、それでも3週間の空白の期間がある。海外へ旅するには充分な時間だ。会社へは、どこかの温泉で湯治していたことにすればいい。

短絡的に、南の島でビーチの木陰に座り、ビールを飲みながら夕日を眺めている自分を思い浮かべ、どこか海外へ行くしかないと決意した。ちょうど検温に来たナースに「南の島でリハビリするぞ」と決意のほどを伝えると、どこへ行くつもりなのかと聞かれた。
会社でいつも昼休みともなれば、インターネットで海外のダイビングツアーの情報を集めては、ため息をついていた。フィリピン、サイパン、ロタ、グアムあたりで、安いツアーを探せば6万円台からあるだろう。
「どこ?セブ島?バリ?」
フィリピンしか頭に無かったぼくは、彼女の「バリ」という言葉に強い印象を持った。バリってどこなんだろう。偏見かも知れないが、ネットではバリ島でのダイビングの話はあまり聞かない。良いダイビングポイントが少ないのかもしれない。
そしてその翌日、退院の前日のことだった。ぼくは外出許可を取り付けて病院を抜け出し、近くのJRの駅にタクシーで向かった。駅前にネットカフェがあればそこで情報収集をするのだが、残念ながら知っている店はない。駅ビルの中にある旅行代理店で、JTBのパンフレットをあれこれ物色。よさげなのは、村上龍の「悲しき熱帯」にあったオーストラリア、プーケット、グアム、近藤紘一の「サイゴンのいちばん長い日」、沢木耕太郎の「一号線を北上せよ」で書かれているベトナム カンボジア、浅田次郎の「オー・マイ・ガア!」のラスベガス。すべてはごく最近、読んだ本で印象に残っているところだ。それから、ナースのお勧めのバリ島。
駅前のスターバックに入り、それぞれのパンフレットをじっくりと吟味。ぼくはなぜか、神々の住むバリ島のパンフレットに心が強く引かれていた。バリ島は7日間のツアーで10万円ぐらいで行って来れそうだ。これなら、国内の温泉で湯治するのとあまり変わらない金額だろう。

その夜、病院で美人No.1のナースに
「バリ島ってどこにあるの?」
と聞く。彼女曰く、インドネシア諸島とのことだ。だったら、赤道に近いから、海でもプールでも泳げるに違いない。リハビリにはもってこいだ。
「いいなあ」
早くも行く気満々のぼくに、彼女はうらやましげにため息をついた。

翌日、いよいよ退院。週末なのでナースは藤原紀華と広末涼子似の2人しかいない。笑顔で見送る彼女達にお別れの挨拶。そしてぼくは、タクシーで自宅へ。自宅につくや、ネットでバリ島への格安チケットを探す。しかし、一番安いチケットでも6万円台。これじゃあ、格安ツアーの方がプール付きのホテルを確保できるため安上がりになる。いろいろ調べて、HISの一人旅プランに決定。
ということでHISにチケット購入のため連絡するも、3連休の真ん中で連絡がつかない。建国記念日の次の日、2月12日でなければ業務開始とならないようだ。連休が明けるまで待つしかない。こうして、ぼくのバリ行きが決まった。出発は2月17日(日)、5泊7日の旅程を選択。はたして、松葉杖で海外へぼくは脱出できるのだろうか。

                                     第一部 完