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tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

没収

2008-04-04 21:30:10 | 日記

最年少の美人ナースとベッドで話をしていたときだった。もちろん、ぼくがベッドで彼女に手術前のいろいろなケアを受けていた時で、ふたりともベッドの上にいたわけではない。その時、ぼくのベッドから、腰痛で長期入院中の男性がパジャマの上に上着を着込むのが目に止まった。ぼくもタバコを吸っていた時期があって、体内のニコチンが切れた時の苦しさは知っているつもりだ。ニコチン中毒者、タバコを止められない人たちは、病院内全面禁煙を受けて、しっかり上着を着込んで病棟の屋上へこっそり吸いに行ったり、病院の玄関の外に置いてある灰皿のところで吸っていたりしていた。
だが、タバコを吸わないナース達はそのにおいに敏感だ。どんなに衣服に消臭剤を振りまいてこようが、タバコを吸ってきたことを敏感に気がついて患者を叱る。いつも、こうしてニコチン中毒の入院患者とナース達のバトルが始まる。

日大整形・松崎他によればウサギにニコチンを8週間与えた結果、椎間板細胞のプロテオグリカン合成能はニコチンを与えなかったウサギのの1/3に、コラーゲン合成能は1/2に、椎間板への栄養経路の毛細血管数も約半分になったと報告している(脊椎脊髄ジャーナルVol.13 No.6 2000年)。喫煙は、椎間板変性を惹起させると言わざるをえない。
さらに、カロライナ医学センター整形外科のKwiatkowski TC, Hanley EN Jr, Ramp WKらによれば、喫煙は骨代謝と骨折の治癒を遅らせた上に、術後感染のリスクを高め、骨癒合不全率を高めると報告している(Am J Orthop 25(9):590-7,1996)。
喫煙は血液循環に重大な影響を与え、心拍数・末梢血管抵抗・血圧・心拍出量・冠状動脈血流を増やす。また全身の微小循環血流を減らす。その結果、術後血管閉塞の危険が高く創傷治癒が損なわれる。喫煙は百害あって一利無しなのだ。

「没収しますよ」
最年少の美人ナースは優しい言葉遣いながら、その目は真剣だった。上着のポケットに入っていたタバコをひそかにどこかに移し変えたその腰痛患者は、タバコを吸いに行くつもりではないと懸命に主張する。
2人のやり取りを見ていて、どっちに加勢したものかとぼくは思案していたのだが、最終的に彼女の側についた。「禁煙するぐらいなら死んだ方がマシ」というのが喫煙者の言い分なのだが、一生懸命に健康回復を願っているナース達からしてみれば、入院中はがんばって全力で養生してほしいというのが彼女たちの切なる願いなのだ。そんなに吸いたければ退院してから吸えばよい。
たかがタバコと、彼らのやり取りをぼくはニヤニヤして聞いていたのだが、患者の健康を本当に心配している彼女の姿に心を動かされた。彼女たちの気持ちを考えると、やっぱり入院中は吸うべきじゃない。特に彼の場合は、普通、2週間で退院できるところを、回復が思わしくなく、2ヶ月以上かかっても退院できないでいるのだから。