MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

柴田耕太郎『決定版翻訳力錬成テキストブック』

2017年08月06日 | 

柴田耕太郎さんから『決定版翻訳力錬成テキストブック:英文を一点の曇りなく読み解く』(日外アソシエーツ)をいただいた。12年前にハードカバーで出た『翻訳力錬成テキストブック』の新版である。620ページを越すそのボリュームにまず圧倒される。また、旧版は増刷1回で絶版にしてもらったという。その理由は100題のうち一箇所に納得のいかない部分があったためというから驚く。

全体は「論理的な文章を読む」、「感覚的な文章を読む」、「平明な文章を読む」、「学術的な文章を読む」、「難解な文章を読む」の5部構成で、それぞれに20の課題が収められている。各課題は、まず10行程度の英文と出典が提示される。次のページには詳細な構文分析があるが、ここは旧版にかなり手を入れて、より精緻になっている。次にその4倍ものスペースをとった語釈の部分があるが、ここでは可能な限り文法事項も取り入れている。その後、3種類の訳文が示される。まず「原文に即した訳」(直訳に近い訳)があり、続いて「モデル訳文」が来る。さらに「サンプル訳と訂正」として、訳例に対する添削が置かれる。おそらくこの部分が
本書の最大の特長であろう。翻訳の指導には欠かせない詳細な添削によって、はじめて読者は自分の訳文をどのようにすれば翻訳になるのかを体得できるからである。

このような翻訳を志向した類書は実はそれほど多くない。たとえば本書を行方昭夫(2016)『英文翻訳術』(DHC)(これもいい本なのだが)と比べてみると違いがはっきりする。まず行方本には構文分析はなく、語釈と説明も少ない。「試訳」と「翻訳」を並べて少し翻訳について説明しているが、「試訳をどうすれば、読みやすい翻訳にまで仕上げられるか」(行方本の「はじめに」)がストンと腑に落ちるというところまでは行っていないのである。(いわゆる英文解釈やリーディングを謳った本ではほとんどの場合訳例はひとつしかない。訳を小さな活字で巻末にまとめたものさえある。)

最後に「今回のトピック」と「研究」があり、さらに文法事項や語法が説明される。著者は「学校英語の一歩先、英語学の一歩手前を心がけた」と言うが、この部分もたとえば接続詞 because, as, since の情報構造など、新しい知見がちりばめられている。翻訳志望者にはとくにお薦めする。

(写真は左が旧版、右が新版。)


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